第8話
「で……殿下!!」
視界に飛び込んできたのは、目にも眩しいきらびやかな金髪。
その髪はくせっ毛の私とは違ってストレートで、しかも肩の下まで伸ばして流している。
なんていうか、いつ見てもサラサラでトリートメント(いや無いけど)が行き届いている感じだ。
「何か騒がしいけれど、どうかしたのかい?」
涼し気な紫色の目が私を見て細められる。私より頭一つ半は高いところから見下ろす視線は柔らかい。白を基調とした制服が良くお似合いで、見るからに王子様って容姿をしていた。ていうか、王子様そのものなんだけども。
「あ……いえ、その」
茶番が続く混乱の現場に颯爽と現れたのは、この国の王太子にして私の現婚約者。
リュオディス・アルト・スティクレール。
いずれ私を悪役令嬢として断罪する予定の男主人公だ。いや、そのはずなんだけども…ゲーム序盤であまりのクソさにぶん投げちゃったから、どういう流れでそうなるかがサッパリ解んないんだよね。まあ、良いけど。
この手のストーリーって、だいたいパターン決まってるし、なんとかなるでしょ。たぶん……。
「良いところにおいでくださいました!!殿下!!」
さて、シナリオ通りに登場した王太子殿下に、さっそくポンコツ男…こと、レイドール・ユトス・コルターナくんが食い付いた。うんうん。まあ、ここまではプレイしたから知ってるよ。ここからさらに、私は殿下からもお叱りを受ける流れなんだよね。
人の話を聞かないアホ×2倍で、頭痛くなったからよく覚えてるよ。
「オイレンブルク令嬢が、彼女を突き飛ばしたのです!!」
自信満々に見てもいないことを見たように報告するレイドール様。ああ、もう君の残念な頭の中では、それ事実になってるんだね??つーか、君も生まれたばっかりの雛頭かよ??って、脳内できつめの突っ込みを入れつつ私は覚悟を決めて殿下の対応を待つ。
ていうか、いやもうほんと面倒だから、早く終わって欲しいんですよ。
そういう訳で、さあさあ、どうぞどうぞ、断罪してやってください。
「……………」
半ばやけくそで開き直って反論もせずにいると、殿下がゆっくりと端正な形の唇を開き──
「何を言っている。アウラがそのような真似をするはずがあるまい」
「…………………は??」
ちょっと待て。
なんで私のこと庇ってるんです??
そこの台詞は『なんと酷いことをする女だ、君は!!』だったでしょ!?
あとなんで愛称!?今の今まで愛称で呼んだことないでしょ!?
なに急に親密度増してきてんの!!??
ゲームの中の君は婚約者を『オイレンブルク令嬢』呼ばわりするわ、十年付き合ってきた幼馴染の女より、ぽっと出の初対面女を信じるような、そんなポンコツクソ男だったでしょ、殿下ああ!!
「……えと、リ、リュオディス様?」
「……えっ」
「……えっ??」
私もだけど、レイドール様も、ヒロインの彼女も、予定外の殿下の返答に言葉を失くしてしまっていた。
あらら。ちょっと、てっきり殿下は味方だと信じ切ってた二人が、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になってるじゃないの…どうするのよ、この空気??
「いや、あの、ですが、彼女がそう言って……」
レイドール様は何とか立て直そうと、背中に庇ったヒロインを指しつつ言を継いだ。
頑張れ!!レイドール様!!殿下に否定されて、もうさっそく自信がなさげな顔になってるけど、私は君を応援してるぞ!!ファイトだ!!未来のポンコツ宰相!!!!
「だから、その彼女が言っていたではないか。自分で転んだと」
えっ、そこ、聞いてたの??
殿下の正論そのものの突っ込みに、私は素直に驚いてしまった。
まあ確かに彼女、自分で言ってたよね。『自分が悪い』だから『オイレンブルク令嬢は悪くない』って。それはそうなんですけど、でも、あなたがそれ言っちゃ話が進まないでしょ。
転生令嬢物でよくある展開ですけど。
いきなりこんな初っ端から、シナリオ変更ですか。
つーか誰の仕業だよ、この改変??
しみじみ思い返すが、少なくとも私は何もしてなかった。
だってヒロインに足かけて転ばせたりしてないもんね。
むしろ、させてもらえなかった、と言うべきか……??
「さあ、教室へ行こうか。遅刻するよ、アウラ」
「え……あ、ええ…」
ごく自然にエスコートされた私は、ごく自然に殿下の腕を取り、流れるような足取りでその場を脱することに成功した。えええ??良いの!?悪役令嬢の私が、男主人公と仲良く離脱しちゃっても??
後には何が起こったのか理解できずに愕然としたヒロインと、大口を開いたまま間抜けな顔を晒しているレイドール様が残されたのだった。
そんなレイドール様を見て思ったよね。
人間…やっぱり、顔だけじゃダメだ。
うん、ある程度の脳みそ必要だわ。
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