第24話 ♠ 対話と真相
ひかりからのメッセージはどうでもいいとして、いまVtuber界隈では、レードマンとユメパッケージの話題で持ち切りになっている。
大手の人気Vtuberたち本人がその話題に触れるということは決して無いが、個人で活動しているVtuberたちや、ファンたち、そしてウェブメディアによっていくつかの検証がなされて、あの宮本ミカンの音声はどうやら本当に捏造だったらしいという事実がじわじわと広まっていっているようだ。
中でも、技術系Vtuberを名乗っている銀情めたんはあの音声を再現するための手順を一から詳細にまとめた動画を投稿し、YouTubeのコメントやXitterで結構な数のリアクションが付いていた。
『――ということで、あとはこの文章をコピペして生成ボタンを押すだけで完成です! それでは、早速出力された音声ファイルを再生してみましょう……ほら、見事に再現できましたね! このファイルを先程紹介したサイトで比較してみると……ほら、「100%一致」と出ました! これがあの音声の真実だったというわけです。……ところで、このことを解明してレードマン氏と対決したオウル氏って、実はワタシの親友なんですよ! そしてなんと、ワタシも裏で調査に協力していたんです! つまりこれは、ワタシとオウル氏との共同作業によって明らかになった真実なんですよ!』
銀情めたんと親友になった覚えは無いが、いつの間にかそういうことになっていた。まあ、特にこちらが損をするということも無いから放っておくが。NVRで探偵行為をした時には結構世話になったし。名前くらい好きに使ってくれていい。
銀情めたんは動画を出すスピードも異常に早いし、おそらく、それくらいの強引さがないとVtuber業界で伸びていくのは難しいのだろう。彼もまた、苛烈な生き残り競争の中で必死に戦っているのだ。
それから、俺の身にもひとつ変化が起きた。
これまでほとんど動かしていなかった〈オウル〉のアカウントが、大量のフォロワーを獲得したのだ。
ざっと内訳を見ていくと、Vtuberのオタクが大半だが、中には有名なエンジニアやクリエイター、そしてVtuberも混ざっていて、ひとつの資産と呼べるレベルになっている。
DMの一般開放は止めてしまったので誰かから直接言葉が届くことはほとんど無いが、一通だけ、オウルのアカウントがフォローしている相手からDMが届いた。
差出人は、ほむる。
普通なら成りすましを疑うような状況だが、本人から「連絡する」と言っていたし、確かに俺がフォローしているアカウントからだったので、本人で間違いない。
〈やあやあオウルくん。お疲れ様だね。さて、君はレードマン君に「ほむるの視聴者のひとりを代理して凸している」と言っていたけれど、一体誰の代理だったんだい?〉
すぐに返事を書く。
〈ワトソンネーム「フォレスト」だ。あいつにポイントを進呈してくれ。これで合計三回の”正解”を出したはずなんだが、本当にスパナを渡すのか?〉
するとすぐに返信が来る。
〈ああ、本当だよ。しかし、こりゃ驚いた。三連続で”正解”とは、素晴らしいね。当初の予定では色んなワトソンが長期間”正解”の数を競い合って徐々にチャンネルが成長していくはずだったんだけれどね。フォレスト君のことは、ずっと君が裏で手伝っていたのかい?〉
〈まあそうだな。予定が狂っちゃったのは悪かった〉
〈いやいや、むしろ君のような才能に巡り合うことができて本当にラッキーだったと思っているよ。これだからインターネットはやめられない〉
〈ところで、俺からも質問していいか? 返答の内容は他言しないと約束する。もし誰かに漏れたらフォレストのスパナを没収してくれていい〉
やや時間を空けて、返事が来た。
〈うーん、本当はファンとの個人的なやり取りは避けたいんだけれど……君はボクのファンじゃないよね。それなら少しくらいは答えてあげるよ。君にはとても興味があるし〉
そうか、Vtuberというのはアイドル的な側面があるから、こうやってリスナーと直接やり取りをするのは結構な異常事態なんだな。まあ、本人がいいと言うのであれば俺には関係ないけれど。
〈ありがとう。じゃあ単刀直入に訊くが、あのダイイングメッセージを作って俺とDMしたのってあんたか?〉
〈おお! よくわかったね。アカウントまで借りて、完全にフリル君に成り切っていたのに。でもどうしてそう思ったんだい?〉
やっぱりそうか。
正直確率で言うと半々くらいかと思っていたが、勘が当たったようだ。
〈ちょっと話の流れが不自然すぎるなと思って〉
〈あはは、そりゃそうだね。普通はあんな方法でワトソンを呼び出したりしない〉
〈それに、もし俺が有名Vtuberから転生したとしたら、なるべくデカい騒ぎを起こして売名したいからな。転生に気付いてないファンもいただろうし。もう引退する古谷フリルはそれに協力してくれた。つまり、あのふざけたダイイングメッセージが拡散された時点である程度の目標は達成していた。違うか?〉
〈半分当たってるけど、君はちょっと論理的すぎるね。確かにその思惑が全く無かったかと言えば、嘘になるかもしれない。でも、売名が一番の目的じゃないよ〉
おっと、こちらは読みが外れた。
インターネットで注目を集めるのが目当てじゃないとなると……うーん、わからん。
〈そうか。なら一番の目的は?〉
〈一度、自分のリスナーたちを信じてみたかったんだよ。インターネットの集合知は、一体どこまで問題解決能力を持っているのか、試してみたかったんだ。このままワトソンの数が増えればもっと大きなことができるかもしれないからね〉
そういうことだったのか。
一見するとただの遊びのようだが、もしかしたらワトソンの集合知というのは、とてつもないパワーを秘めているのかもしれない。
今回も「ブライル」という名前だけで、あの業者までたどり着けたわけだし。
〈なるほど、じゃあ最初からそのために”探偵”のキャラを選んだのか?〉
〈それは、単純にボクの趣味だよ〉
ロールプレイをしているVtuberにとっては失礼に当たる質問だっただろうに、素直に答えてくれた。意外とノリがいいな。この流れなら、もうひとつの質問にも答えてくれるかもしれない。
〈そうか、ありがとう。それともう一つ気になってるんだが……〉
〈この際だから答えるよ〉
〈回答に”愛”が必要な理由は何だ?〉
少しの間。どうやら長文を打っているらしい。
〈君は本当に着眼点が面白いね。そうだな、確かに不必要な要素に見えるかもしれないけれど、愛情に欠いた回答は、依頼人を傷付けたり、不利益になるかもしれないからね。ボクは愛のあるインターネットを楽しみたいんだよ。君とフォレスト君の関係だって、愛があるから成り立っているんだろ?〉
〈それはノーコメント〉
〈……まあいいや。これくらいでいいかな?〉
〈ああ、満足した〉
〈そうだ、いまの君はボクのファンじゃないかもしれないけれど、いつかきっと、ファンにしてみせるよ〉
〈わかった。楽しみにしてる〉
メッセージのやり取りが終わって、ふと気になったのでYouTubeを開いた。
検索窓に〈ほむる〉と打ち込んで、彼女のチャンネルを確認する。
やっぱり。登録者数が増えている。
その数は俺がチャンネル登録した時の二倍――二万人になっていた。
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