第23話 ♥ 称賛と覚悟
もの凄い配信を見た。
啓ちゃんがレードマンのチャンネルに出演して、ミカンちゃんの音声が捏造だという証拠を突きつけ、見事に論破したのだ。
正直、言っていることは半分くらいしか理解できなかったけれど、とにかくあの音声はMOZZ-3というアプリケーションを使って機械的に作られたもので、それをレードマンが認めた。そして、その音声を持ち込んできたのがユメパッケージ一期生の平岡ヒバチちゃんだということも公にしてみせた。
つまり、これで完全にミカンちゃんが被害者であったことがみんなに知れ渡ったのだ。
配信が終わってしばらく呆然としてしまっていたのだけれど、そろそろ啓ちゃんに連絡してもいいだろうか?
一通だけLINEのメッセージを入れてみる。
〈啓ちゃん、すごかった〉
するとすぐに返信が来た。
〈少し話すか〉
即座に通話を掛ける。
一瞬で繋がって、啓ちゃんの声が聞こえてきた。
『あ〜流石に疲れたわ』
「お、お疲れ様でした……!」
スマホでの通話越しに、思わす頭を下げる。
なんだかサラリーマンっぽい仕草だなと思いつつ、他にどうやって
『まあこれだけやれば、もらえるんじゃないかと思うんだよな』
「何を……?」
『”正解”を』
ああ、そういえばそういう話だった。
古谷フリルちゃんは、あのライブのステージ上で、ほむるちゃんに呼びかけた。そしてダイイング・メッセージを残して、いなくなってしまった。
それに対してほむるちゃんは動画で返答して、ワトソンたちに問いかけたのだ。「ワトソンの諸君、どう思う?」と。
あれが正式な”依頼”だったのかはわからないけれど、もしそうであると解釈するのであれば、啓ちゃんが取り組んだ一連の行いは、きっと”正解”を貰うことができるだろう。問題解決に貢献して、多くの撮れ高を生み出し、ワトソンたちのほむるちゃんに対する愛を一手に引き受けてみせたのだから。
そして、啓ちゃんは最初のレードマンとの通話から、”あるワトソンの代理”を名乗っている。そのワトソンというのが、この私――フォレストのことだ。
でも……。
「もうさ、”正解”とか”スパナ”とか、そういうの抜きにしても凄いよ。あのレードマンを成敗して、ほむるちゃんの冤罪を払拭してくれたんだから……。私、啓ちゃんには感謝してもしきれない……」
『そりゃどういたしまして。でもとりあえず、ほむるの次の動画を待とうぜ。これで”正解”が貰えなかったら抗議してやろうかな』
「それはやめて!」
翌日、ほむるちゃんが一本の動画を投稿した。
そこで語られていたのは、ワトソンへの称賛だった。
『やあやあワトソンの諸君。会いたかったよ。二週間も黙って更新を止めて、申し訳ないね。ずっと、君たちの様子を見ていたんだ。古谷フリル君からのダイイングメッセージ――あれを受け取って、君たちに託した。すると、それを解き明かして、フリル君からの依頼を解決してしまったワトソンが現れたんだ。うん、実に素晴らしいよ。事務所の所長として、大変に鼻が高いね』
啓ちゃんのことだ。
そして、やっぱりあれは”依頼”という扱いだったのか。
『ただひとつ問題があってね、そのワトソンというのは、誰かの代理として動いていたらしい。ボクは一体誰にポイントを進呈すればいいんだろう? これは本人に訊いてみないとわからないだろうから、近い内にボクから連絡するよ。いやあ、それにしても、あのワトソンはカッコよかったなぁ。確かに愛を感じたし、撮れ高も抜群だった』
確かに、あのレードマンの配信に出ている時の啓ちゃんは最高にカッコよかった。
まるで本物の探偵みたいに証拠を突きつけて、最終的には平岡ヒバチちゃんという黒幕まで表舞台に引きずり出したのだ。
まだヒバチちゃんやユメパッケージは何も声明を出していないけれど、界隈では既に話題になってしまっている。きっといま、どう対応するか話し合っているのだろう。……想像しただけで地獄だ。
でもまあ、自業自得かな……。
『あ、そうだ。かつてユメパッケージに所属していた「宮本ミカン」という元Vtuberからメッセージが届いているんだ』
え?
いま、宮本ミカンって言った?
他人という設定とはいえ、まさか本人の口から前世の名前が出てくるとは、驚いた。そんなのアリなんだ。
『えー、読み上げるよ。「ワトソンのみなさん、私の過去の冤罪を晴らしてくれて、本当にありがとうございます。これで心置きなく成仏できそうです。私はもうみんなの世界にいないけれど、いまでもVtuberという文化のことを愛しています。だから、もし生まれ変わったとしても、またVtuberをやりたいな。その時は、新しい姿の私のことをよろしくお願いします」……とのこと。うーん、何が言いたいのかよくわからないけれど、どうやら吹っ切れたみたいだね。よかったよかった。それじゃ、今回の動画はここまで。また次の依頼でも頼りにしているよ』
動画が終わった。
啓ちゃんのお陰で推しが救われた――その事実に対して、嬉しく思うと同時に、頭を抱えてしまう。私には、どうやってお礼をすればいいのかわからない。
学校へ行ってきちんと卒業する?
そんなの、当たり前のことだ。
これは、いよいよ覚悟を決める時かもしれない。
思い立ったが即時、啓ちゃんにメッセージを送る。
震える手をどうにか制御してスマホに文字を打ち込み、送信。
〈啓ちゃん、私の全てを捧げます。身も心も、全て〉
すぐに既読が付いて、〈いらない〉とだけ返信が来た。
ひーん。
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