第五話

 離宮に帰った私は夜会で起こった事をローディアス様にお伝えしました。まぁ、これは毎日の事で別に今日が特別な事ではございません。これまでもアジュバール様に何回お尻を触られ掛けたかまで報告しておりましたよ。


 今回は特にアジュバール様が口走った「シャーヤが愛してくれれば〜」というセリフを重要なものとしてローディアス様にお伝えしました。ただ、その前に私が口走った事は、何となく言い辛かったので伏せました。


 私の報告を聞いてローディアス様は首を傾げました。


「なるほど。それは面白いな。実はシャーヤ様も今日、こんな事を仰ったのだ」


 なんでも、ローディアス様が頑としてシャーヤ様のお誘いをお断りすると、シャーヤ様は激昂してこう仰ったのだそうです。


「アジュバール様が振り向いて下されば貴方みたいな偽物を求めたりしませんのに!」


 ローディアス様を偽物扱いとは良い度胸ですが、確かにそれは不思議とアジュバール様のセリフと一致するような気が致しますね。それにしても、一体どういう会話の中でそんなお言葉が飛び出したのかが気になります。


 ローディアス様は顎に手をやって考え込まれております。ローディアス様は思慮深いですから、こういう時は彼にお任せすれば間違いありません。


 しかし、ローディアス様は私の方をチラッと見て私に問い掛けました。


「どう思う? ソフィア」


「? 何がでございましょう?」


「彼らの言葉を額面通りに解釈すると、お二人は愛し合っているが、お互いの愛情を信じていない、という風に取れる」


 ……確かに、そういう風に取れますね。


「果たしてあの二人にそんな事があり得るのか? あの二人なら毎日お互いに愛情を確かめ合っているのではないか?」


 誰が見てもそう見えるでしょうね。あれほど赤裸々に愛を表明出来るお二人ですもの。お互いに愛し合っているのなら堂々とそう言うのではないでしょうか。


 ……果たしてそうでしょうか。私はお二人の様子を思い出します。


 そういえば、あのお二人は仲良さそうに見えましたけれど、不思議とベタベタとはしていなかった気が致します。あれに比べれば私に迫っていた時のアジュバール様の方が十倍くらい暑苦しかったですね。


 完璧な礼節に従ってお互いに接しているように見えました。アジュバール様もシャーヤ様も他では礼節などどこかに投げ捨てていましたからね。ちょっと違和感があるといえばあります。


 私がその事をお伝えすると、ローディアス様は天を仰いで考え込まれます。


「確かに私もそれは感じた。不仲なのかとも思っていたが、どうもそうでも無いようだな。ソフィア。どうしたら良いと思う?」


 ……どうして私に聞くのですか? と私は首を傾げてしまいます。そんな事私に聞かれても困りますよ。私がそう考えたのはローディアス様にも判ったのでしょう。かれはその麗し顔を渋面にして言いました。


「私には恋愛経験が無いから、こういう男女の感情の微妙な機微は分からぬ。君の方が詳しかろう」


 ……恋愛経験の無さ加減で言ったら私は貴方と同等に決まっているでしょう? と言いたいです。幼くして結婚したせいで、私に愛を囁くような方は、それこそアジュバール様が初めてだったのですから。


 恋愛経験皆無の二人が頭を突き合わせても良い知恵が出るわけもありません。私はとりあえず情報を収集する事に致しました。


 翌日、私はシャーヤ様をお茶にお誘い致しました。これはこれまでも幾度かあったことですから不自然ではありません。王太子妃と皇太子妃で交流を深めるためです。ですけど、これまでは私と仲の良い婦人を数人お招きしてお茶会を開催したのですが、今回はシャーヤ様と二人きりでした。


 庭園の東屋に用意された席に案内されてきたシャーヤ様はあからさまに不機嫌そうでしたよ。濃い青のドレスに身を包み、相変わらずお美しかったですが、表情に笑顔がありません。いつも自信満々な笑顔でいらっしゃるのに。貴族的な作り笑顔すらしていません。ぶすっとした表情のまま私の前の席に座りました。


 私は何食わぬ顔で笑顔を浮かべています。社交で鍛えられた王太子妃の笑顔です。そしてシャーヤ様にお茶を勧め、お茶菓子を紹介し、二人だけのお茶会が始まりました。


 シャーヤ様は開口一番こう仰いました。


「何の用なのよ」


 ご挨拶ですが、私は笑顔のまま言いました。


「勿論、シャーヤ様と仲良くなるためのお茶会でございますよ」


「嘘をおっしゃい。ローディアス様を落とせなかった私を笑いものにするつもりでしょう」


 あら、やはりローディアス様にかなり強引に迫ったのに振られてしまった事でかなりプライドが傷付いているのだと思われます。私は表情を崩さぬまま、優雅にカップを手に取りながら言います。


「そんな事は致しませんよ。そもそもローディアス様は潔癖な方。貴女の誘惑になんて乗りません」


「ふん! あんなに余所余所しい夫婦なら簡単に引き裂けると思ったのに。意外だったわよ。そうすればこの国は大混乱。面白いことになると思ったのにね」


 やっぱり狙って国に混乱を起こしているようです。そういえば余所の国で王太子をたらし込んで大混乱に陥らせた例もあるとか言っていましたかね?


 シャーヤ様のこのぶっちゃけ具合、態度からすると、恐らく私とローディアス様の仲を崩せなかった事で目的が果たせなかったお二人は、帰国を考えていると思われますね。ちょっとお待ちください。そうは参りませんよ? 散々余所の国を掻き回しておいてそのまま帰られても困ります。


 ちょっとはそっちも惑わされてくれなくては。


「狙いは悪くなかったと思いますけども、方法が悪かったですわね。ローディアス様をシャーヤ様が誘惑することもですけど、アジュバール様を私に誘惑させるのは頂けません。もう少し良い男を送り込んで下さらなくては」


 私がアジュバール様を軽く嘲ると、シャーヤ様の眉がきゅっと跳ね上がりました。


「……アジュバール様では不満だったという事?」


「ええ。あのような軽薄な男では私の心は動きませんわ。残念ですけど。貴女のお国にはもっと素敵な男性がいらっしゃるのではありませんの? アジュバール様なんかではなく。そうすれば貴女の企みも上手く行ったかも知れませんのに」


 私が更に言い募る内に、シャーヤ様の眉はドンドン逆立って行き、遂には彼女は激昂して叫びました。


「アジュバール様より素晴らしい男性などいるわけが無いでしょう!」


 ……ビンゴです。大当たりです。


 シャーヤ様はテーブルの上に身を乗り出して、私に向かって噛み付くように叫びます。


「貴女! おかしいのでは無い? あの完全無欠な男であるアジュバール様に迫られて、不満ですって? あの澄まし顔の何考えてるか分からない旦那の方が良いですって? 馬鹿じゃ無いの! どう考えてもアジュバール様の方が素敵じゃ無い! アジュバール様の方がローディアス様なんかよりも何十倍も素晴らしい男なんだから!」


 私としては反論したくて仕方が無い言い方でしたけど、我慢いたしました。目的は口論ではありませんのでね。私はニッコリと笑いながら言います。


「そんなにアジュバール様は素敵な男性ですか?」


「ええ! 見れば分かるじゃないの! あの完璧な美貌! 剣のような長身! 虎のような身のこなし! 頭だって良いのよ? 訪れる国の言葉を一週間くらいで完璧に覚えてしまうのですから! 女性に繊細に気を遣うことも出来ますし、自分を必要以上に誇ることもなさいません! どう考えても最高の男性じゃないの!」


 アジュバール様を褒め称えるシャーヤ様の目は本気です。瞳にハートが浮かんでおります。これはもう間違いありません。


「……シャーヤ様はアジュバール様を愛しておられるのですね?」


「ええ! 私の夫は世界一の男性です! アジュバール様こそが理想の男性なのですわ!」


 盛大なのろけでした。その熱い告白に私は仰け反りながらも、私はシャーヤ様に問い掛けました。


「……それなら何故、不倫をなさるのですか? アジュバール様が理想の男性なら、アジュバール様だけを愛すればよろしいのではありませんか? それではどんな男性とお付き合いしても不満しか生まれませんでしょう?」


 私の言葉にシャーヤ様は大きな衝撃を受けた、というお顔をなさいました。よろよろと椅子に腰を落として呆然としてしまっています。言った私が驚くほどの効果でした。


「……シャーヤ様?」


「……それが出来れば、苦労はしないのよ。……私だって……」


 そう言うと、シャーヤ様は何と涙を浮かべてシクシクと泣き始めてしまいました。私は仰天です。慌てて立ち上がり彼女の侍女と共にシャーヤ様を慰める羽目になりましたよ。どうしてこうなった?


 どうにかこうにか彼女を慰め、宥める内に、シャーヤ様やその侍女から聞いた話をまとめる事によると、どうやらこういう事情のようでした。


 シャーヤ様は私よりも五つ年上の二十歳。アラストーヤ帝国の大貴族令嬢として生まれた彼女は早くから帝国の第一皇子であったアジュバール様との結婚が取り沙汰されており、アジュバール様五歳、シャーヤ様四歳の時に婚約。そしてシャーヤ様十歳の時にご結婚なさったのだそうです。ということは結婚十年目。私と同じでございますね。


 アジュバール様は幼少時から美少年で、しかも明朗快活。シャーヤ様は一目会った時から虜になり、結婚するまで本当に楽しみだった、と仰いました。この辺は私達とは違いますね。私はいきなり結婚でしたからね。


 で、念願叶ってシャーヤ様はアジュバール様のところにお嫁入りなさいました。幸せ一杯。アジュバール様もシャーヤ様を気に入っておられたそうで、何の問題も無いように思えます。


 ところが、ここからが私とローディアス様とはちょっと事情が異なったようなのです。私とローディアス様は六歳五歳での結婚でした。これでは、当時の私達に子作りが期待されなかったのは無理もありません。ところが、シャーヤ様の嫁入りは彼女に初めての月経が訪れるのを待ってのものだったのだそうです。


 シャーヤ様は発育が良く初潮が早かったようですね。つまりこれは、シャーヤ様がお子を宿すことが出来るようになるのを待っての嫁入りだったということなのです。


 ですから、お二人は結婚してすぐに子作りを期待されました。結婚初夜が私とローディアス様とは違って本当に結婚初夜だった訳です。


 勿論お二人は皇族ですから、閨についての教育はお受けになっていて、知識はあったそうです。ですが、当時アジュバール様が十一歳。シャーヤ様が十歳。いくら何でも二人は幼過ぎました。


 幼いお二人の結婚初夜は失敗に終わってしまったそうです。シャーヤ様は泣いてしまい、アジュバール様は懸命にシャーヤ様を慰めて下さったとか。どうもこれが、お二人にとって大変な心の傷になってしまったようですね。シャーヤ様を泣かせてしまったアジュバール様はシャーヤ様に手を出せなくなり、妃の義務を果たせなかったシャーヤ様はご自分を責めるようになってしまいます。


 初夜以来夫婦関係が成り立たなくなってしまったお二人ですが、ご関係は悪くなく、特にシャーヤ様はアジュバール様が大好き。ですが初夜がトラウマになったシャーヤ様はアジュバール様と関係が結べなくなり、アジュバール様も同様にシャーヤ様を求めなくなります。成長するに従って、お互いを求める欲求は強くなるのに、心の傷がどうしても関係を結ばせません。


 困ったシャーヤ様は他の男性と経験をすれば、アジュバール様との関係に抵抗が無くなるのではないかと思ったようです。これが彼女の不倫の始まりでした。最初は訓練のためだったのです。アジュバール様との初夜で純潔は失っているので、貴族には良くある不倫の範疇ですから、特に問題にはならなかったでしょう。しかし同時に、アジュバール様も浮気を繰り返すようになります。貴族なら良くあることでこれも問題にはなりません。


 問題はシャーヤ様のお心です。シャーヤ様はアジュバール様の浮気に甚大なショックを受けたそうです。意に沿わない男性と関係を結ぶのは、周囲からは不倫に見えても彼女にとってはアジュバール様との関係を結ぶための訓練だったのですから。この事で自棄になったシャーヤ様は今度は本当に不倫を繰り返すようになってしまいました。アジュバール様も浮気が常態化。こうして今のお互いに浮気と不倫を繰り返すお二人の状況が出来上がってしまった、というわけですね。


 シャーヤ様はアジュバール様の事が今でも本当にお好きで、ご関係も別に悪くはありません。しかしアジュバール様の浮気癖は嫌で、アジュバール様が浮気をしていると思うと、自分も不倫をしないと耐えられない気分になるそうです。ですけどシャーヤ様が本当に結ばれたいのはアジュバール様であり、彼が愛して下さるなら不倫などしないと仰います。


 ですけど、今ではお二人は寝室を分けられているそうで、そもそも関係が結べる状況にも無いそうですね。アジュバール様からのお求めも無く、それどころか「シャーヤも好きな男と過ごす方がいいだろう?」などと言われてしまっているそうです。シャーヤ様も強がって「そうですわね。お互い自由恋愛で、皇太子夫妻としての役目だけをしっかりやりましょう」などと言ってしまい、お互い競うように浮気、不倫を繰り返し、遂には帝国には相手が居なくなり、それで他国を歴訪して相手を探すまでになってしまった、と。


 ……どういうこじれ方ですか。


 まだ清い身体の私には刺激は強いし(当然シャーヤ様はそんな事は知りませんから赤裸々に話しますので)男女の生憎が入り交じるお話は難しかったのですが、事情は何とか理解いたしました。これは重症です。こじれにこじれまくっております。シャーヤ様は泣きながら「本当はアジュバール様に愛されたい。他の男では嫌だ」とまで仰るのです。あれほど気軽に男性を誘惑出来るシャーヤ様なのに、大本命であり自分の夫であるアジュバール様にはこれが言えないのですから、男女の仲というのは本当に分かりません。


 とりあえず事情は分かりました。私はシャーヤ様を宥め、彼女の侍女に任せて彼女を迎賓館に送り返しました。そして疲れ切って離宮へと帰りましたよ。


 その日の夜会にはアジュバール様もシャーヤ様もいらっしゃいませんでした。ついでに言えばローディアス様もいらっしゃいません。久しぶりに静かで穏やかな夜会でしたね。


 離宮に戻り、暫くするとローディアス様が帰宮なさいました。お顔が赤く、お酒の匂いが致します。これはかなりお酒を嗜まれたようですね。


「あの男、鯨か何かなのか? 無茶苦茶に酒に強くて大変だった」


 あらまぁ、ローディアス様も酒豪でいらっしゃるのに。


 ローディアス様は今日、アジュバール様をお誘いしてお二人だけで酒宴をなさったのです。私がシャーヤ様をお招きしたのと目的は一緒です。情報収集です。私とテーブルを挟んでお座りになったローディアス様はお酒を呑んでいるからかいつもよりも色っぽく見えましたね。銀髪を掻き上げて大きな溜息を吐きます。


「あれは、相当こじらせているぞ。かなり酔うまで白状しなかったがな」


 おやまぁ。やっぱりそっちもでしたか。


 ローディアス様が仰るには、やはりアジュバール様もシャーヤ様を熱烈に愛していらして「シャーヤは私の女神だ! 美の化身だ!」とま断言されたそうです。それはまた。


 兎に角アジュバール様はシャーヤ様が大好きで、非常に大事にしておられるそうです。シャーヤ様はあれでそう贅沢では無いそうですが、彼女の要望は可能な限りアジュバール様が奔走して叶えているのだとか。例えば、我が王国への来訪もシャーヤ様のご希望だったのだそうです。あんまり関係の良くない両国でしたから、本来であれば皇太子夫妻の来訪は難しかったのに、アジュバール様が様々な所に働き掛けて実現にこぎ着けたのだとか。それは知りませんでした。


 で、そんなに大事にしているお妃様のシャーヤ様ですのに、やはり結婚初夜の失敗でアジュバール様もシャーヤ様に触れるのが怖くなってしまい、関係を持てなくなったことに大いに悩まれたとか。それでやはり彼女を今度こそ優しく愛せるように、他の女性と閨の訓練をなさったのだそうで、この辺はシャーヤ様の事情と全く同じでしたね。シャーヤ様の不倫にショックを受けたのも同じ。


 シャーヤ様が不倫なさるのはご自分が不甲斐ないからだと悩まれ、もっと自分が経験豊富でどんな女性も簡単に魅了出来るような男性になれば、シャーヤ様が自分に振り向いてくれるかも知れないと、自分を磨き女性を籠絡する術を身に付けるように努力なさっているそうでして、ここからもうシャーヤ様の想いと全力ですれ違っておりますね。というより、お互い初夜の事でトラウマがあって遠慮があって、お互いの浮気と不倫に傷付きあっているのですから、事情を知ればもうどこから手を付けて良いか分からないくらいお互いの思いがこんがらがっています。


 お話を聞いた私は考え込んでしまったのですけども、ローディアス様は少しさっぱりしたような表情でした。


「まぁ、アジュバール様の言うことには、もう少ししたら帰国するとの事だったからな。後少しの辛抱だ。あの様子ならもう私達や他の者達に言い寄ることも無かろう」


 やはりお二人は帰国を考えているようです。遙かに遠いアラストーヤ帝国ですから、お二人がお帰りになればもう会うこともございませんでしょう。我が国に残る僅かな混乱も(お二人に誘惑された方の離婚だの婚約破棄だのの騒動が少し残っております)その内収まるでしょう。無事に皇太子ご夫妻も接待出来ましたですし、お二人の弱みも握ったのですから、これからの両国関係は良い方向に変化するのではないでしょうか。


 というところでローディアス様はお二人の来訪で起こった事を収めるつもりのようですね。


 ……ちょっと待って下さいませ。それはあんまりではありませんか。


 我が王国の貴族社会はお二人のために色々掻き回されたのです。それなのにお二人をただ帰すのは我が王国の名折れではありませんか。少しくらいはやり返してやりたいと思って当然ではございませんか。それに……。


「ローディアス様。あのお二人を、その、何とか出来ませんでしょうか」


 ローディアス様が驚いたお顔をなさいます。何を言い出すのかと思ったのでしょう。


「何を企んでいる、ソフィア。やめておけ。あんな面倒な二人は後腐れ無いように粛々と送り返すに限る。あんな複雑な事情に手を出してお二人の問題が更にこじれて、我が王国まで巻き込まれる問題になったら目も当てられぬ」


 それは、そうなんでございますけどね。私はうーんと唸りながらローディアス様を上目遣いで見上げました。


「その、あの二人、なんだか他人事には思われなくて」


 ローディアス様が沈黙します。


 そうなのです。あのお二人の境遇は色々なところで私とローディアス様に重なるのです。幼くして結婚したところもそうですし、肉体関係が無いところ。そして……。


 あのお二人はもしかしたら、私達の未来の姿なのかも知れません。少し何かを掛け違えれば、私とローディアス様の関係もああなってしまってもおかしくはありませんでしょう。


 そして、あのままではどう考えても、お二人の関係は破綻致します。アジュバール様がシャーヤ様以外と庶子をお作りになっても、シャーヤ様が別の男性とのお子をお産みになる事態になっても、お二人のあのこじれた関係は決定的に壊れてしまうでしょう。それは、事情を知る私には何となく、残念な事に思えるのです。


 遠い知らない国で起こるだろう出来事です。知らないならそれで良かったのですが、事情を知ってしまった今では、仕方ないで済ます事は気分の良くない事でありましょう。あの愛し合う、それでいてすれ違うお二人が悲しい運命を辿るのを、黙って見ている事はもう私には出来ません。


 できる限りの事をしたあげたい。そう思うのは国益を最優先に考えるべき王太子妃としては愚かな事でございましょうけどね。


 と、私が思っている事はローディアス様にも正確に伝わった事でしょう。以心伝心に関しては私とローディアス様はお互いに誰にも負けませんからね。


「何か、考えがあるのだろう? ソフィア。君の言う通りにしよう」


 流石はローディアス様です。私は身を乗り出して、私の考えた「シャーヤ様とアジュバール様をくっつかせよう計画」とお伝えしたのでした。

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