第90話 ミラクル・スターライトの行方


 数日間、順調だった。前のようなレンタルのノマドロボではないため、闇雲に敵に向かっていくことも無く快適に旅路を進んでいった。遭遇するモンスターが少ないうえに、クラスC程度なら外に出ることなくノマドロボで倒せる。まだ試していないがクラスBも倒せるかもしれない。


 操縦は、ほぼ俺一人に任された。以前と同じようにBrynkを繋ぐと、周りの壁や床までが透過されて全方向がはっきりと見える。一点に集中するとそこだけがズームアップや小さな音を拾うことができる。こちらから話しかけることもできるようだ。ノマドロボのエネルギー量や損傷具合も表示されている。その他バランス設定や加速モード、目的地までの方向など視界の四隅にさまざまな情報が羅列されている。


 以前のノマドロボのように前面に、ブルドーザーのような大きなブレードは無い。盲目的に前進するのではなく足が自由に動くので障害物をよけながら進む。このロボは4本足だ。そのうち2本がやや小さめで、後方についており、高速走行をする場合に重要となる。足に付いているホイールも大きく凸凹の面でも速度を落とさない。そして、出力が桁違いだ。速度も以前のより2倍は楽に出る。それでもまだ出力に余裕があるようだ。最新鋭の核融合エンジンを3つ搭載しているらしい。障害物を飛び越えるとその跳躍力は大木の頂上にまで達する。森林や沼地などでも速度を落とさず爽快に走る。


 夜の運転はテワオルデにまかせた。目標は北の方角にあるクラスCのダンジョンで、当初の予定と変わらない。初のダンジョン攻略のため、会議も欠かせない。 以前のようなモンスターを退治するための即応班は要らなかった。そのため機体に乗ってから、何もしていない仲間たちを叩き起こし、ホールに集合させて綿密な話し合いをする。


「マオゥは来なくていいのか」だの、「あのマフィアは会議に参加しないのか」などと悪態をいつものようにつく連中もいるが気にせず作戦を決める。結局、話がまとまらないまま時間だけが過ぎてしまうのだが……。


 そんなこんなで、2日が経ちかなり操縦に慣れてきた。この機体がまるで体の一部のように感じる。なんとも言えない爽快感が続く。先ほどはモンスターがこちらに向かってきたから、このノマドロボの足をいっぱいに伸ばし、加速度の付いたまま思いっきり蹴飛ばしてやった。生死不明だが二度と俺の前に現れることはないだろう。……生死不明としたがモンスターを倒すと、デバイス上にポイントが入る仕組みになっている。ポイントが入ってないので死んでいないのだろうと予想する。


 そして一番驚くことが起こった。それは……。


 この最新鋭のノマドロボは順調に目的地へと向かっている。だが、あまりにも不思議な事が起こってしまった。それは、このコックピットにあるモニターだ。全体を見渡せると以前話したが、その他にも機能がありBrynkのAIが可視化されるような仕様になっている。


 実は、最初にこのノマドロボを動かした時から異変は起こっていた。目の前に突然少女が現れたからだ。最初に現れた時は、テワオルデが隣にいて操作説明をしていたので余計混乱してしまった。


「誰ですか彼女は?」などと言って、テワオルデを驚かせてしまった。


 結局は「AIが可視化されているんですよ」と諭されてそれで納得したが、ミラクルが話しかけてきてさらに驚くことになる。


 なぜかというと、このAIの可視化とぴったり口の動きが同じだったからだ。そこで感づいた。本来はAIを可視化する機能だが、ミラクルの姿をそのまま映像化して映してしまったのではないかと。そして、これはテワオルデに言っても混乱をよぶだけと思い、テワオルデがコックピットから出ていくまで気にしないように運転した。


 青いロングヘアーで、無邪気な笑顔がとてもミラクルらしい。たしか肉体年齢は20歳くらいと言っていたが少女にしか見えない。そうか……、この世界では20歳はまだ子供だったか。


 1人になったときに運転しながら、尋ねてみた。


「もしかして……君がミラクルなのか?」


『何を言っているんですかマスター』と笑いながら答えるミラクルがまぶしかった。


「いや……見えてるんだよミラクルの事が」


「え?……どういうことですか?」


「おそらくこの機体の性能なのだろうと思うよ。本来ならBrynk上のAIの顔がモニターのように出てきて話しかける機能なんだろうと思う。現にAIのモニターを消すという選択も出来るみたいだ……」


 そういってから少し考えて聞いてみた。


「その映像は実際のミラクルの姿なのか……。俺が今見えてる姿は青髪が長く、青い目をしている。身長は140㎝くらいで俺よりもだいぶ幼く見える。たとえば、マリと同じくらいかな……」


「そうですそうです! 絶対に私です……」


 その時ちょうど、テワオルデから連絡が入る。するとテワオルデの顔がモニターに映り話しかけてきた。


「運転はいかがでしょうか。もし不明な点がありましたらいつでもおっしゃってください」

「大丈夫です。今の所順調です。もしなにかあったらすぐ報告しますね」と答え通信を切った。


『テワオルデの顔がモニターに映りましたね。でも、実は以前から出ていたんですよ』


「そうなのか?」


『そうです。でも、隣にいきなり顔が出てきて、驚いてそれが嫌で……オフにしていました』と言い、きゃはっと笑うミラクル。いつもなら苛立ちがこみ上げてくるのに、実際目の前で笑顔をされるとなんだか照れてしまう。


『なんですか? マスター調子が狂います』


「いや……ごめん……初めましてミラクル」と改めて言ってしまった。

 

『え? どうしたんですかマスター顔を赤くして』

 

「いや! 別に赤くなんてしてないぞ……」


『あ……私の姿を見て惚れましたね!』


「さすがに、子供に惚れることはない」


『絶世の美女を目の前にして胸がどきどきしてますね』


「悪いが絶世の美女ではない。まあ可愛いことは認めるが……」


『なんですかそれ?』と笑う。


 視界に入って悪いものでもないし、オフにせず、そのままにしておこうか。


 と、考えながら運転を二時間ほどしていたのだが……。先ほどから彼女は目の前で動く動く……。ダンスをしたり謎のスティックを振り回したり、話さない時いつも何してんだこいつ――とツッコんでやりたい気持ちを抑えつつ運転に集中していた。


 ……やっぱり、集中できない。普通なら連絡が終われば、映像が自動的に切れるんじゃないのか? 普通のAIじゃないから、常に通信状態になってしまうのだろうか……。


 うん! ……動きが全部丸見えだ。こちらが恥ずかしくなるからとりあえず今はオフにしよう……。


 ……ふと思った。ミラクルの実際の肉体は今どこにあるのだろうか……、以前『考えると辛くなる』というミラクルの言葉がよぎる。怨霊と失礼な冗談を言ってしまったがそんなはずはない……と思う。この惑星を出ることが出来たら一緒に探してあげよう。


―――――――――――


いつも拙作を読んでいただき有難うございます。


とうとうミラクル・スターライトの姿が可視化しました。

近況ノートにイメージを載せましたで是非見てあげてください。goodもよろしくお願いします!


ミラクル・スターライトのイメージ


https://kakuyomu.jp/users/createrT/news/16818023212857129003

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