第81話 悔恨


 最悪な状況だ……。


 ミラクルも酷いショックだったようで細々と話しかけてくる。


『私も、変なことされてしまうのかな……本当に最低で醜悪で惨めな男ですね。近寄らないでくださいね』


 ――お前もかよ、誤解だし、俺だってあまり記憶がないんだよ。大体Brynkって記憶するとか、その時何が起こったかデータが残ってるんじゃないのか。


『そんな記録取れてないですよ。そもそも昨夜は異常をきたしていたのですから』


 ――それって絶対に罠だよな。くそ! 騙された。


『それならあの映像は何だったんですか?』


 ――そ、それは……。


 自分もあの刺青の女と……セックスをしたことは何となく覚えている。だが、お互い同意だったはずだ。それに……、酔っていたにしてもおかしい。こんなに記憶が定まらないほど飲んでいないはずだ。あと、もっと最悪なのはあの映像だ。確かに俺が映っているがあんな暴力を振っているはずがない。俺の覚えている限りでは、自分がお酒を飲んだ勢いで暴力や問題を起こしたことなどかつてない。遠い昔の記憶だが……、そんな記憶はない。


 ――完全に騙された……。


『でも……、変なことをしたのは確かなんですよね。全然知らない女と。はぁ……、良かったそんな時に私の意識があったらトラウマになるところでした。はぁ……ゲェしそう』


 ――お前が何歳の設定か知らないが……確かにな。それは反省するし、このことはもうお前には相談しない。


『私は200歳を超えていますよ。それに設定じゃないです。肉体的な年齢は20歳くらいですけど……』


 ――200歳超えてるなら問題ないだろ!


 もういいや、これと話していると相談なのか、冗談なのか分からなくなってくる。


「はぁ……」


 ため息が出る。顔の腫れが痛い。イシナさんも愕然としてて回復魔法を使ってくれなかったからな。


 あのあと、刺青男にボコボコに殴られて、泣きながら土下座した。最初はこの男の女を寝取ってしまったことに反省していたのだが、話はどんどんと想像を超えて、良からぬ方向へと向かってしまう。


 あらわれた刺青女の顔がひどく腫れ、体に無数のあざがあったのだ。この男が殴ったのだと思い、怒りが湧いて殴り倒そうとしたが彼女の話がさらに衝撃だった。


 酔っ払った俺が殴ってレイプしたのだという。最初は冗談か、男と照らし合わせた見えすいた劣悪な嘘だと思った。しかし、空間映像も残っているという。彼女のBrynkがこの一部始終を記録していたのだ。


 絶対にそんなことをしていないし、反論はした。


 俺が裸で泣きながら土下座をしていた時に、パーティーのみんなが集まってきた。その時の軽蔑の眼差しが脳裏から離れない……。


 ケイラは泣いていた。その泣き顔は俺に対する軽蔑か、助けを失った悲しさなのか。それとも俺も巻き込んでしまったと言う罪悪感からくるものなのだろうか……。とにかく、彼女が必死に助けを求めた結果がこの最悪な状況と化してしまった。……結局、その後も彼女は、この出来事が彼らの仕組んだ悪行だと証言はしなかった。


 犯行の場所は、女の部屋だった。そして俺は裸。彼女はあざだらけの体と顔。床に転がってるワインの瓶と割れたグラス。乱れたベッド……。彼女の体を調べなくても、俺が、昨夜した行動が分かるだろう。

 この光景を見て、そして、俺が裸になり暴力を振っている映像を見せられたのなら、信頼関係が俺の仲間でも見限るだろう。


 しっかりと検証すれば、映像が嘘とか、身体の傷もあとでつけたものだと分かるかもしれない。しかし、この乱世の混沌とした世の中だ。さらに悪いのが軍の施設内だった事だ。万が一レイプとして裁かれたら死刑だと脅された。軍施設内の重犯罪は、指令室レベルの施設があれば、その場で簡易的な軍法裁判が出来、即日の処刑もあり得るらしい。


 この事件を知っているのは、その時駆けつけた、パーティーみんなと軍隊の上の一部の人だけだ。軍司令官は俺の活躍があったことと、ことを考慮して穏便に済ましてくれた。大々的には告発はしないとのこと。

 

 その後、多額の賠償金を支払うことと、2人がパーティーメンバーに加わり行動を共にする事が決まった。……本当に俺が犯罪者だと分かっているなら2人は仲間に入るはずがないのだが、完全にやられた。騙された。


 だが、どうして……この軍司令室まである移動兵機の内部でBrynkのハッキングなどできたのだろうか。軍部よりもマフィアの方が最先端の機器を持っているとでもいうのか……。彼らがいる犯罪組織の大きさがなんとなく分かり、さらに体を震わせた。


 


 1週間が経った今、さらに悪い報告が上がった。



 彼女は妊娠したらしい……。



 俺は……一体どうすればいいんだ……。

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