第79話 休憩③
「まだ途中だ」
「……」女に腕をつかまれ座るように促される。心臓が高鳴る。話の途中で急に席を立つのは悪かったか……。
「あと5回で勝負が決まる。最後までやろうや」
「あ……はい、では……」
断りたかったが、断るより5回ポーカーをする方が、気が楽に思い否定できない。そんな雰囲気が漂う。体が緊張でかたまる。
……男がカードを配る。
妙な緊張感が漂う。カードゲームなんてしなければよかった。こんなタイミングでケイラから離れてここから出ていってほしいなど言えない。余計に悪い方向に向かいそうだ。
「何も賭けないって言うのも面白くないな」
「いや、俺は、何も賭けなくていいです」
カードが配られる。
「簡単なものでもいい。例えば……命とか」
何を言っているんだこいつは――。
冗談だよと笑うが、何も面白くない。
「そうだな……たとえば新型の移動兵機をもらえるんだろう? それを賭けないか」
「な! 何を言っているんですか! それは賭けられるよなものではありません!」
「まあ、落ち着けよ……。そうか、では。俺が勝ったらその移動兵機に乗せてもらおうか?」
どういう意味だろうか。別に見学したいだけなら乗せてもいいが。先ほど言ったバカみたいな賭けよりもよっぽどましには思えるが……。
「……乗せるってどういう意味ですか?」
「俺たちもパーティーに入れて欲しいってことだ」
「……!?」
彼女のメッセージで、俺たちのパーティーに入りたいと言う言葉が最後にあった。だから、それを了承する言葉を先ほど暗号で送ったばかりだ。彼らがそれを知るはずがない。おそらく、彼女が俺の部屋に入った理由を考えて、鎌をかけているのだろう。
「彼女は俺たちの大切な仲間なんだよ。勝手に交渉されたら困る」
「何を言っているのか分かりません。仲間だという事くらい知ってますよ……なぜ俺が……そんな交渉なんてしないといけないんですか」
「白々しいな、彼女をパーティーに入れるなら俺たちも仲間にして当然じゃないか?」
「顔色が悪いけど、何か理由があるのかしら?」大きな胸に入れ墨のある女が、優しい言葉に似合わずきつく質問してくる。情報が漏れてる? 心臓がさらに高鳴る。目が怖い。まるで蛇に睨まれた蛙のように固まる。
まるで脅すように仲間にしてくれと言ってくる。俺の仲間に入りたい真意が分からないが、このまま押されてはいけない……。そう強く思った。
「どうした?」男が追い詰めるように問いかけてくる。睨むように視線を送ってくる。
「それは出来ない」はっきりと答えた。だが、2人の威圧的な態度にカードを持つ手が震えている。
「だから、このゲームで俺が勝ったら仲間にしてもらう」
「だからできない」
「もうやっているだろう?」
「もうやっている? 何を……」
「賭けだよ」
……? いつのまにかBrynk上のデバイスで、パーティーの加入を賭けていることとなっている。俺はマイナスが多く溜まっていた。何も賭けないという話だったが、Brynk上では賭け事になっている。いつの間に……嵌められた……。
――ミラクルどういうことだ?
『き……きえ……ききけんで……』
――どういうことだ? どうした!? ハッキング? こんなところで? こんな状況、こんな時にか? おい! ミラクルどうした!
「おい、ガキ。早くカードを出せ」そう言いながらテーブルを蹴る。優しい言葉から一変する。本性が出てきた。顔が怖い。
だが……トロルボスに比べたらただの人間だ。俺はいくつも死線をくぐり抜けてきた。実際、先日の戦闘ではほとんど死んだようなものだ。何をこんな人間に怖れているのだろうか。ここは大きく出てやる。震えている手が止まった……。俺には仲間もいる。マリやテワオルデ。こんな末端のマフィア2人に何を恐れているのだろう……。
待てよ……むしろこいつらを仲間にすることでケイラも一緒についてくる理由ができる。その途中で追い出すか……処罰すればいい。これは好機だ。
「はぁ……分かったよ。仲間に入れてやる。困ってるんだろ」
その言葉に男はニヤッと笑みを浮かべる。
「だが、もし仲間内でいざこざが起こったら追い出す。これだけは覚えておいてくれ。俺たちはお前たちを歓迎しないだろう」
「まあ……いいぜ、約束する」
2人は俺の態度の変化に少し動揺しているようだ。そう……俺は今までの弱い俺ではない。恐怖を克服した強者だ。差し出された手に、自信に満ちた手で握手をした。その横にいた女も手を握る。その怖いはずの女の顔が、急に柔軟になる。こう見ると整っていて美人だ。あまりに大胆に開いた胸元の刺青に目が行ってしまう。その刺青も
「君たちのパーティーの目的や向かう先を少し詳しく教えてくれないか?」とまた優しい口調で聞いてくる。
「分かった。このカードゲームはまだするのか?」
「……やめよう」
仲間にすると言ったら驚くほど懐柔される2人であった……。悪い2人ながら実は心細く仲間にして欲しかったのだろうか。弱い一面を知り少しいい人に見える。
だが不可解なのがハッキング、Brynkの障害が起こっている事だ。こんな軍所有の移動兵機の中で簡単に使えるものではない。客人用の部屋だからといっても、そのような対策はされているはずだと思う。
早くこの2人から離れなければ……。
「その詳細は明日でもいいか……?」
「明日でもいいのだが、お願いがある。わずかな時間でいいから部屋に来てほしい?」
「部屋?」
「いいものがある」
危険な匂いしかしない……。
「仲間として祝いたいんだ」
「いや、結構だ」立ち上がろうとするとまた女が腕をつかむ。
「私たちはお礼がしたいだけなんだよ。少しでいいから」
「少し……いや、でも」
「頼むよ、少しだけ」男も笑顔で願ってくる。
しつこいな……なんだよ、いいものってお礼って。急に物腰が柔らかくなるといってもこれはやりすぎだろう。
「分かった、そのお礼ってなんだ?」
女性が急に近寄り耳元でつぶやく。
「ワインがあるんだ」
彼女の独特な香水の香りにドキッとする。そしてなぜそんなものを2人が持っているのか疑う。
「いいだろ? ちゃんとしたものだぜ」男が笑う。控えめな笑顔がこの雰囲気に合わずハンサムだった。
「そ、そんな……」
もちろんお酒は所持が禁止しているものではない。だが、飲食という快楽をあまり推奨されていないこの世界だ。背徳感がある。しかし、いつも単純な味覚に飽きていた。そして、リラリースと飲んだ日を思い出した。あんなにおいしいものを飲んだのは初めてだった。今でも、その美味を思い出すことがあるほどだ。この2人は何を考えているのか分からない。だが、この軍施設の中でちっぽけな2人がどんな悪事をできると言うのだろうか。俺には何も恐れるものはない。こんな半端人間を怖がってどうする。彼らは絶体絶命の場で命を助けられ、さらにこのモンスターの溢れる危険な惑星でパーティーに入れてくる恩人に礼をしたいだけだ。
そういえば……なぜ彼らは人身売買でここの惑星に来たのだろうか。以前ミラクルが言っていたな、ここにはモンスターの出現の混乱で惑星内外から人を集めている。その中には悪人もいると。何かに追われ逃げてきたのか、この惑星が人身売買の拠点なのか。まあ、どちらにせよ、今は考えなくてもいい。この半端者2人もモンスターの恐怖に襲われて助けを求めている弱者だ……。素直にお礼を受け取ってやろう。
「少しだけならいいだろう」
「良かった♪」刺青女が急に腕を組み胸を当ててくる。
危なく声が出そうなくらい驚いた。「ああ……」と相槌をしながら腕から離れる。見上げてくる美形な顔と大きく開いた胸が、不思議な魅力を出していた。
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