第61話 戦闘開始


 移動を開始した時刻から既に2時間ほどが経過していた。すると移動兵機ノマドロボット超獣モンスター感知をして初めて止まった。移動兵機ノマドロボットの外部後方にある高さ約2メートルくらいの待機場で警戒していた俺とマリは飛び降りる。今まで戦ってきた獣の見た目をしたモンスターだ。


 マリが一撃で片付ける。あまりにあっけない討伐だったが、これがパーティを組んでから最初の討伐だ。ハイタッチしようと笑顔で手を上げたが…………マリは素通り。まあ……マリの性格だとそうだろうな、空気なんて読んでくれない。


 待機場に戻る。マリは軽く飛んでそこに乗り待機する。だが、俺はしがみついてようやく登る。登り切らないうちにロボットが動き出し、振り落とされそうになる。


 何とかしがみついて登った時マリが、「お前が落ちそうになって捨てられかけてるじゃねぇか……」と笑みひとつ浮かべずに皮肉をいう。


「はいはい」と、皮肉に対して適当に相槌をしながら体勢を整える。くそ……、どうして俺が大部屋で5人に言った言葉を知ってるんだ……。と、考えているうちにまたすぐ移動兵機ノマドロボットが停止した。思わず「え?」と、口に出る。

 

 ……マリはすでに飛び降りていた。俺もとりあえず降りると、そこにはまたランクCのモンスターがいた。


 マリがすぐに倒したので、再び待機場によじ登る。振り落とされそうになりながらも、何とかしがみついて登る。


「情けねぇ姿だなぁ……」と鼻で笑うマリ。モンスター退治に加勢すらできず、待機場への上り下りだけで苦労しているのは確かに少し恥ずかしい。


 移動兵機ノマドロボットは動き始めると逆方向に走り出した。……どういうことだ?


 そしてまたすぐに停止する。ここはモンスターの群れがいる地域なのだろうか。モンスターを察知すると、多少目標の道から離れたところや逆方向でも向かっていくようだ。


 3時間が経過する。その間に何度もモンスターと遭遇し、上り下りだけでもヘトヘトになる。しかし、モンスターはマリがすぐに倒してしまうため、俺はまだ一度も剣を振るう機会がない。だから、経験値は上がらずに疲労だけが溜まっている。……わずかな時間でいいので倒す前に待ってくれたら嬉しいのだが、……そんなことをしてくれるほどマリは性格をしたタイプではない。


 マリが交代を告げ、移動兵機ノマドロボットの中へ入ろうとする。息を切らした俺は「お疲れ!」と声をかけた。それに対してマリの可愛い顔は、何がお疲れだと言わんばかりの表情をして去っていく……。


 次に交代で来たのはヘルドとパラスパラスだった。


 「よろしく!」と挨拶をすると、返事は「足引っ張るなよ」だった。


 モンスターはすぐに現れる。今回は俺も間に合い、技を発動して大きなダメージを与える。パラスパラスの鋭い爪による引き裂き攻撃でモンスターを倒すと、経験値が入りレベルが上がる。この調子で続ければ、みんなに追いつけそうだ。先ほどより待機場に登るのも上手くなってきた。


 この辺はランクCのモンスターばかりで戦闘に苦労はしない……が、日暮れまで続けると、俺の体はボロボロとなる。そして……ようやく交代の時間だ!!!


 なんとか体力の限りを尽くし、今日の即応班としての当番が終わった……。


 ……しかし、次は移動兵機ノマドロボットの操縦の番だ。


 少々ふらついた足取りでコックピットへと向かう。……テワオルデと運転を交代していたギルガメキラムがそこに座っていた。挨拶を交わし、交代する。


 説明は少しだけであった。

 

 ……コックピットの席に座りBrynkを繋げると、移動兵機ノマドロボット全体を把握できる不思議な感覚になる。数値が頭の中に流れ操作の全体像が理解できる。周囲の景色が鮮明に頭に映し出される。


 モンスターの出現時に交代したので、今は移動兵機ノマドロボットは停止している。


 戦闘が終わったのでこの大きなロボットを動かす。……ゆっくりと進み、そして徐々に速度が上がる。すると動力が足にあるホイールへと切り替わったようで、上下の動きが収まり、速度が速くなる。そのスピード感と操作そのものが楽くなってくる。……気持ちよく運転していると急に操縦が利かなくなる。少し焦ったが、アラームが鳴るのでモンスターを察知したと理解した。


 最初は刺激があり楽しかったが、モンスターをすぐに検知して、遅々として進まない。この地域にはどれだけ多くのモンスターがいるんだろうか。そもそも、この兵機自体が探知しすぎだろう。結構遠くにいるモンスターまで追いかけ、そこからさらに探知するので、目標の場所よりも大きく迂回してしまっている。……距離では165km進んでいるみたいだが、目標までの距離は依然1986kmも残っていてほとんど進んでいない。いったい目的地の子供の部屋エルドラド・クリバーと呼ばれる生産施設ダンジョンまでどれくらい時間がかかるのだろうか。


 また停止する。即応班での戦闘の疲労もあり少し眠くなる。ミラクルも応援してくれているのか大声で歌を歌っている。……これは普段通りの日課だったか。


 …………。


 そんな調子で数時間が経過した……。


 明け方に近い時間になり、テワオルデが来て交代した。……ようやく休める。


 ……ふらふらとした足取りで休憩部屋へと向かい、部屋へと入る。今の時間の即応班の当番は、魔法使い2人と役たたずの数合わせ女1人だ。


 なので、薄暗いこの部屋には、4人の元ハンターキラーとマリが寝ていた。……息を飲む。セクシーとは程遠いひどい寝相といびきをしているが、全員が美人だ。なんとなくいい匂いがするその部屋で……その寝顔を見る……。多少は性的な想像もしてしまう……。そんな事を考えてしまうほど疲労が溜まっているのだ。何とか休もうと思うが俺の寝る場所がない。まさかこの中に飛び込むわけにいかない。多少はその欲望がなくもないが……。


 ……とりあえず俺の体も限界だ。ヘルドを起こして少しずれてくれと頼む。だが、ヘルドは寝起きで機嫌が悪いのか思いっきり腹を蹴られた。無様に吹き飛ぶ俺「くそ……」、床に倒れ込み少し動けない……。


 するとヘルドは「お前は物置で寝ろ」と寝言のように呟いた。イラっとしたが仕方がない。腹いせに少し体を触ってやろうかと思ったが、命に関わりそうなのでやめておいた。ミラクルもその考えにはドン引きしている。体も頭もフラフラだ。起こさないように5人の上を跨ぎながら物置に向かう。――「やべ……」、シンの無駄に大きい胸に足が引っかかりバランスを崩す。思いっきりマリに抱きつくように倒れ込む。マリのやわらかいほおに俺の顔が当たる。


 「危ねぇ……危ねぇ」と呟き顔を上げると、マリの目が開いた……。


 ……頭がうまく動かないが何となく、この薄暗い部屋で寝ているマリを抱きしめている俺の状況が非常に危ういものと理解してくる。


「お前にそんな度胸があるとはな……」と寝起きのマリは静かに言う。

 

 背筋に冷たいものが流れる……。


「いやいや……流石にこんな幼児体型にそそられるほど俺も疲れてないですよ……それならヘルドやシンに抱きついたほうが疲れも取れます……。でもいい匂いだな……なんてね♪……」と、なにもフォローになっていない言い訳を慌てて絞り出す。


「はやく、俺の上から退けろ!」と思いっきり蹴り飛ばされる。壁に激突して倒れ込む。


 ……「ばかだなお前……」とヘルドや軽蔑の嘲笑をするヒメカダイラスに、「こいつ私の胸を揉んだ上にマリを襲ったぞ」とシン。「最低だな……」と俺の評価が地に落ちるのを横目に腰をさすりながら物置に入った……。


『変なことを想像したマスターが悪いんですよ、だから自分の欲望が現れるんです。これは事故ではなく深層心理の故意ですよ……』


 と、真相を知っているはずのミラクルまで俺のことを誤解している。

 

 狭い物置の中で体育座りをしながら寝た……。誰か頑張っている俺を評価して褒めてください……。


 疲れなのだろうかミラクルの歌声を聴きながらでも寝ることができた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る