第39話 村


「ちょっと待っていてください。今、村の皆を呼んできますから」と赤髪の女性が言い、駆けて行った。


 あれから村に行く道中も、なぜそんな名前にしたのだとか、なぜ一度嘘を言ってごまかしただのと、しつこく必殺技の名前をいじられた。にたにたした顔が今でも腹正しい。2度ほど本当に帰ろうかと思った。

 

『そんなに変な名前かな。可愛いのに』とミラクルは残念そうに口をはさむ。


「変だ! 必殺技の名前は可愛くなくてもいいんだ」といらいらを口に出す。


 しばらく、あとを追うと集落の中心に来た。


 大きな家のドアが開き、村長と先ほどの赤髪の女性が一緒に出て来ていた。


「君が、ミラクル・プリリー様かね」と村長が尋ねる。


「違います」と即答。


 隣で赤髪の女性がぷっと吹き出している。本当に失礼な人だな。


「私はタメラト・ミラです。この村が困っていると聞き助けに来ました」


「それはありがたい。なんという勇敢なハンターじゃ。実はもう1人ハンターがいるのだが小さい女性でのう。心配じゃったのだ」


「そうなのですか、ぜひ彼女と共闘出来ればもっと楽に倒せると思います」


「ほう、頼もしい! そうだ、ぜひ一度技を見せて欲しい」


「い、いえ。MPも使いますし技はモンスターが出てから使います」


「そうか、それは失礼な事を言ってしまった。みんな! モンスターが出てから技を使うようだぞい」


 影で聞き耳を立てていた村人がでてくる。


「ハンターだ」「カッコいい!」「その後ろにしょっているのはマシンガン! すげー」


 などと子供たちが褒めたたえてくれる。サインまで欲しがりそうな勢いだ。そんなにハンターって凄いのか。少し鼻が高くなる。


「このマシンガンは結構威力があって最近では炸裂弾なども使えるようになったんだよ」と子供や興味のある大人たちに囲まれ、自慢げに言った。なんだか気持ちがいいな。これが正義のヒーローか。


「すげー、もしかして必殺技とかあるんですか?」


「もちろんあるよ!」


「おおー!」


 いけない、勢いで言ってしまった。


「でもまだまだ使えるレベルじゃないんだよ。ここに来るモンスターはどんなタイプのモンスターかな?」とハードルを下げて別の話を振る。


「必殺技の名前は?」


 ほらきた。


 鼻の垂れた小僧が痛いところを突く。いつの間にかあの赤髪の女性も混ざって人数も増えている。周りが静まり返りその答えを待っている。


 さっきまでガヤガヤしてたのに妙に静かな空気になる。


 ごくりと固唾をのむ。


「必殺技の名前は忘れたな。あまり使わないから」と苦し紛れの嘘を言う。


「ご謙遜を! そんなことがあるわけないじゃないですか。必殺技というのはその人の唯一無二の技です。それに消費MPも低く普段から使うのがセオリーなんです。だから多くのハンターたちが自分の個性や特徴にあった名前にしています。その名前を叫ぶことで場面や状況によっては威力が何倍も増す大切なことなんです」と賢そうな人が自信をもって説明してくれた。余計なことをぺらぺらとよくしゃべる。


 仕方がないその話に乗って作り話をしよう「その通りです! ですので、簡単に名前は出せません。これは自分のすべてをかけた技です。自分のすべてを表す名前で、ぺらぺらと話せるものではありません」


「「「「おおー」」」」みんなが一斉に関心をしたようにうなずく。


「ですので、必殺技を出す時に期待してください」


「はい!」一番かわいらしい男の子が目を光らせて言った。


 では、私はこれでいったんモンスターが出るまで休ませてもらいます。


 用意された部屋に入り椅子に座る。


 頭を抱えてうずくまる。大変なことになった。


 何かを間違えてしまった。なぜあんなことを言ったのか。もう必殺技を口に出来ない。


『私には分かりません。何をそんなに恥ずかしいことがあるんですか』


「そうだよな、お前には分からないだろうな。でも確かに名前がどうしたというんだ。恥ずかしい? 人の命がかかってるんだ。俺が間違えていたかもしれない。たかが必殺技の名前程度で何を委縮していたのだろうか」と、悩むのをやめた。名前一つで悩むのがおっくうになってきた。


 隠そうが、誤魔化そうが、”どうせバカバカしい名前”だ。悩んでも仕方がない。


 そう言い切ると頭に激痛が走った。もう帰りたいです。


 夕方になり、予想通りにモンスターが出てきた。


 家の壁を壊したり、人を襲おうとしている。前の熊よりもさらに大きい体をしていて耳が大きい。不細工な顔だが強そうだ。


 すでに戦闘の準備をしていた俺は、その姿を見て固唾を飲む。こんな奴が来るとは、ミラクル頼む。


『了解です。敵の動きを予測します。敵は、クラスCで名称はティグナバ。特徴は耳で、ずば抜けた聴覚でこちらの動きを予測します。でも、先ほどのモンスターより攻撃力も防御力も低い』


 ありがとう! マシンガンを手に持ちBrynkで敵の動き予想を注視する。1つ1つ手作業で製作した魔弾のマガジンベルトだ。無駄撃ちは避けたい。「バババババババッ」通常弾よりも派手な音で連射する。


「ぐああ——!!!」大きな声を出してひるむモンスター。想像以上に効いている。


 モンスターは死に物狂いで暴れる。獣の一番危険なのは仕留め損ねた時だ。モンスターは大きな家の扉を強引に壊し中に入る。


「まずい! 中に人がいる」


 必死であった。マシンガンを捨てて全力で走る。自分のせいで人の命が危ない! 案の定モンスターはその家に住んでいた赤髪の女性に襲い掛かろうとしていた。


 一気に駆ける。全力の速度モンスターは目の前だ。


 ミラクルが叫ぶ『今です! 軌道を見て必殺技を出してください!』


 Brynk上に軌道が映る。


「うぉぉぉぉ! ミラクル・プリリー!」大声が家の外まで響く。


 モンスターが彼女に攻撃を当てる直前、ほんの一瞬のタイミングであった。モンスターが右腕をあげ、その空いた脇の下から袈裟斬り。みごとに真っ二つに分かれた。


 赤髪の彼女は涙を流しながらお礼を言った。


「いえいえ、当たり前のことをしただけです」


 村中の人達も集まってきてみんな感謝の言葉を言う。なんだか照れてしまう。先ほどの子供達も尊敬の眼差しで見てくる。大丈夫だ。必殺技の名前には誰も触れていない。早い所家に帰ろう。


 村のみんなが泊って行ってくださいと言っていたが待っている人がいると言いかたくなに断る。

 早く帰りたいのだ。全員がその必殺技の名前を話題にしていいかどうか戸惑っている。


「先ほどの攻撃は、必殺技ではなくただの技なんです」と何も聞かれていないのに弁解したのは失策だったか。


 足早に日が完全に落ちない間に帰路へとついた。


「ミラクル・プリリーだと?」必殺技を繰り出した時にもう1人の小さな女性ハンターが、夕日に照らされながらそうつぶやいた。

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