第40話 小さな襲撃者
帰りの道中。夕暮れ時の薄暗い林の中を歩いている。超獣はこの辺にはいないと知っていても警戒する。なんとも言えない不気味な雰囲気に、歩く速度も自然と上がる。
ミラクルが『気を付けてください。後ろから嫌な気配がします』という。
肩からマシンガンを下ろして、後ろを気にしつつ早足で林を駆ける。
『剣で構えた方がいいですね。マシンガンは、今は捨てておきましょう』
分かったと返答し地面に置いた。マシンガンを奪われることよりも死なないことが肝心だ。今の体力では戦えない。速度を上げてこの場から逃げる。
その危険な気配が木や茂みに隠れながら付いてきている。そして、こちらが急に走り出したため突如として道に出てくる。
速い! 信じられない速度で追いかけてくる。
逃げきれない。仕方がないと後ろを振り向き剣を構える。
しかし、そこにいたのは身長140cmほどの銀髪の少女だった。背中まで伸びる髪を後ろで結びポニーテールにしている。角のような黒い2つの髪留めが印象的だ。前髪は目の上で揃えている。大きな銀色の瞳で、こちらを真っ直ぐに見ていた。
こぶりの鼻と、すっきりとした口をしていて目をひくような可愛いらしい子供であった。ただ似合わない2つの剣を背中にバッテンとなるように備えていた。
この子は村長の言っていたもう1人のハンターか。確かに、小さな女性1人に頼るのはどうしても抵抗があると言っていたな。だが、今の追跡にしても只者ではないと感じたし、ミラクルも警戒しろと言っている。
「君はハンターか? どうして付いてくるんだ。なぜ君のような子供が超獣ハンターをしているんだ?」
剣を構えたまま聞いてみる。しかし、どう見ても幼く可愛らしい女の子だ。見た目は10代前半にしか見えない。
だが、待てよ。このおかしな未来世界だ。どうせ年齢は226歳で魔人とか言い出すぞ。
「誰が子供だ! 俺は226歳だ。魔人の王であるひれ伏せ!」と、甲高い声で叫ぶ。
やっぱりか……予想が当たり驚く暇もない。さらに王とまで付け足してる。『後ろに少しずつ下がり、その後全力で逃げて下さい』とミラクルが静かに言った。
真面目に言っているのだろうか。この子くらいには勝てそうだが、仕方がなく指示通りに下がる。
半歩、後退りした時だった。「逃げるな、先ほどの事で話がある」と言われ動きが止まる。
ちっ、舌打ちを打つ。ミラクルの言う通り、ただものではない。油断も、隙もどこにも見当たらない。握る剣に汗が滲む。俺は咄嗟に「さっきの超獣がお前のしもべだったとでも言うのか」と問う。
少女は「そんなことではない。俺が、興味があるのは」とためる。
ごくりと固唾を飲む「興味があるのはなんだ」
「さっきの必殺技の名前を教えろ」
は? またかよ。こんな死に直面する場面でもそれ?
拍子が抜けて「もう一度言ってくれ、よく聞き取れなかった」と聞き違いか確認する。
「次に答えないと殺す。さっきの必殺技を言ってみろ」と少女は、その幼い声を大にする。
ここの惑星に降りてからおかしな事が続きすぎだ。それになぜ、この惑星の人間は必殺技の名前がそんなに引っかかる。空気を読んで流してくれ! だが、今殺されるわけにはいかない。大声で叫ぶ。
「ミラクル・プリリーだ! 文句あるか! あるだろうな」
「可愛い♪」
……は?!
目がハートになっている、この少女は一体なんなのだろうか。両手を合わせて銀の瞳が輝いている。怖い。魔人の王だとか、可愛いだとか言い出している。関わりたくないし早く逃げたい。
「もう一度言って! いや、もう一度言え」わざわざ語調と声色を言い換えて威厳を保とうとしている。
もう、よく分からん「ミラクル・プリリー!」とヤケクソに叫んだ。
いきなり抱きついてきた。その速度に圧倒されて動けなかった。ミラクルも声にならない声を出す。
「可愛い、大好き♪」と目からハートを出しながら上目遣いで言った。
こいつは一体何だ。威厳も何もないぞ。俺も恥ずかしいが、魔人の王とか言ってるこいつの方が恥ずかしいな。可愛い子供の見た目だといっても突然抱きしめられたら恐怖しかない。速度といい、尋常ではない。色々と。
ミラクルもよほど恐ろしいのか何もコメントしてこない。だが一言つぶやく『褒めてくれて嬉しい』と。良かったね。
抱きつかれて戸惑う一方でこの場から早く離れたい衝動に駆られる。と、パッと少女は離れた。そして「殺す!」と言って肩から2つの剣を抜く。
その豹変に驚いて動けない。
ミラクルは早口で『剣を前に!』と言い、言われるがままに剣を前に出す。そこに大きな衝撃と火花が散る。少女がいつの間にか両手に持った剣を振るっていた。ミラクルの助言がなければ腹を斬られていた。凄まじい攻撃速度。Brynk上に軌道が出る、それに寸分
一歩少女が下がった。「やるな」
ミラクルは低い声で『ハンターキラーです。賞金を奪ったり、名声の高いものを殺しては、優越に浸る。この惑星では最も罪の重い犯罪集団です。相手にできません』と言った。
どうすりゃいいんだ。もう腕が動かない。
『残念ながら、次の一手でマスターは死にます』
よくもまあ、そんな簡単に言ってくれる。
『でも、本当ですから。避けようがないです』
くそ! と身構える。
『私も一応死なれると困るんです。マスターはレベル2で必殺技を覚えた。それは強く、そして可愛い名前です。もし次に、別の人の担当になったら……』すでに俺のことを諦めている、次の人のことなど今はどうでもいい、頼むから避ける方法を考えてくれ、それか集中するために黙っていて欲しい。
少女から闇の瘴気が溢れ出る。何らかの技を繰り出そうとしているのか。俺でも肌で感じるほどに桁違いの力だ。金色に目が輝く。
やられる! 破れかぶれに叫んだ。
「ミラクル・プリリー!」
その声を聞き、血相を少女が駆け出す。目にも留まらぬ速さで……俺を抱きしめてきた。瘴気も何処かに飛んで、可愛い銀色の目を輝かせる。
笑顔一杯の顔。上目遣いで「もう1回言って♪」と哀願する。
……一体この惑星は何なのだろうか。
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