第37話 モンスターハント


 3ヶ月が過ぎた。いよいよ、超獣モンスターを狩る日になった。戦闘の準備をする。肩にマシンガンをかけてナイフや拳銃を入れたリュックを背負った。そして熱源刀を鞘に入れて腰にかける。


 ステータスをもう一度確認してみるがやはりレベル1から変化がない。訓練で間違いなく力も体力も上がっている。


 最近は魔弾を作れる量も多くなってきている。色の違う魔弾も作れた。爆散系で広範囲に攻撃できる。自信につながるのだが、ステータスは変わらないようだ。


『レベルが上がった時にステータスの変更が行われます。ですのでレベルを上げなければ本来のステータスになりません。訓練を多くした分レベルアップの時の数値の変化が大きくなります』


 そのようなものなのか。納得した。モニターにはステータスの他に、使える剣術や魔法、装備しているものの強さなども表示される。先日はジョギングしながらBrynkで様々な情報を見た。この惑星では銃弾よりも剣の方が敵を死傷させる力が強い。


 そしてこの熱源刀は特殊な剣らしく、感情により剣先の色が変わり、攻撃力もそれに合わせて大きく変わるようだ。場合によっては最強の剣くらいまで上がるという。レベル1の俺が持つには相当な代物だ。


 ……そういえばミラクル、今朝は寝なくて大丈夫なのか?


『私は寝ません! 3分寝たら大丈夫なんです。すごいんですよ。私は』

 

 すごいね。でも肝心な時に寝ないでね。


『だから、寝ませんって!』


 超獣モンスターが出る湖までは徒歩で3時間ほどかかる。乗り物くらい欲しいところだがそれは後でいいだろう。今は体力トレーニングにもなる。


 4時間歩いた。もう少しで湖……のはずだ。だが、実は途中でマップが映らなくなり少々困っている。


 先ほどから俺の忠実なしもべであるAI魔法少女ミラクル様がご就寝だ。


 おい! おい! 頭の中で怒鳴る。


『スーピー……スーピー……ムニャムニャ』


 普段はどんな小さな考え事も拾うくせに、一度寝たらどんなに頭の中で叫んでも全く反応が無い。というか昼夜逆転の生活をどうにかしてほしい。イライラで頭を抱える。


「おい! 起きろ!」大声で怒鳴ってみたが反応はない。その大きな声がこだまして、林の奥から鳥が驚いて飛び出す。


 やっぱり起きないか。その時だった。妙な気配を感じる。ガサガサと林の奥から物音が聞こえる。もしやと思い身構える。リュックを下ろし木陰に置いた。まずは遠距離攻撃をして相手を威嚇する、そのために軍用マシンガンを構える。


 モンスターか? 緊張が走る。ザクザクと草を分けてこちらに近づく足音が聞こえる。音が止む。木と木の間、姿が見えそうなのだが、見えない。その位置からの足音が聞こえない。必ず近くにいるはずだ。


 照準器を見る。本来ならBrynkが敵を把握し行動を予想する。本来なら……。頼むから目を覚めてくれミラクル。


 そう願っていると。木の影から大きなモンスターが出てきた。以前見た画像とは違い、毛のないゴツゴツした肌をもつ熊のようなモンスターで、牙がやたらと伸びている。目は血走っており訓練をしていなければ姿を見るだけで恐怖で動けなくなるほどの威圧だ。


 モンスターは突進してくる。速度が早い!


 冷静に準備していたマシンガンのトリガーを引き続ける。"ブルルルルル……"と振動と共に弾が連射される。

 

 弾がいくつも当たり、少しの悲鳴をあげる。多少の効果はあったようだが動きは止まらない。やはり、軍用でも効果が薄いか。ジグザグに弾をかわす動きをしながらこちらに向かってくる。


 マシンガンを地面に捨てて剣を抜く。接近戦だ。レベル1の俺では敵の一撃で、ゲームオーバーになりかねない。

 

 モンスターが腕を振るったタイミングで、剣でその腕を斬る。当たった! 腕から黒い血が噴き出す。


 しかし、敵の勢いは止まない。逆の腕の鋭い爪で肩を払われる。強烈な威力で吹き飛ばされる。


 地面に転がり受身をとるが呼吸が荒くなる。かなり痛いし痺れている。肩からは血が流れる。


 大丈夫だ、剣はまだ握れる。

 

 モンスターの腕からひどい出血が確認できるが、こちらも劣らないダメージを受けている。

 

 これがランクCかよ。確かにテワオルデさんが言う通り1人では危険すぎる。ミラクルはなんて余計な助言をしてくれたんだ。その上、大切な時にお昼寝だ。お前が寝ている間にご主人が死ぬぞ。恥だぞ、分かれよ! と説教をするがむなしく脳内に響く。

 

 そう思っている間にもモンスターは攻撃を仕掛ける。とにかく後ろに飛びながら襲ってくる左手に剣をぶつけてしのぐ。爪と剣が当たり火花を散らせながら弾かれる。


 何度か苦しい姿勢で攻撃をしのいだ。だが、後ろに大木がありそれに背中をぶつける。その横にも足を絡みそうな草が生い茂っている。足に絡み転倒などしたら、モンスターは新鮮なハラワタを美味しくいただけることだろう。逃げられない。絶体絶命だ。


 モンスターが襲ってくる。防ぎきれない! やられる。


『軌道を見てください! Brynkの予測演算の動きに合わせて、袈裟斬りをしながら叫んでください!』

 

 Brynkが作動し敵の動きの軌道が色分けされる。寸分狂わずにその動きに合わせると、目に見えないほどに速い敵の攻撃をかわした。剣を強く握る。モンスターの横腹の下で構える。脇がガラ空きだ。


『今です! ミラクル・プリリーと叫びながら袈裟斬りして下さい!』


「ミラクル・プリリーーーー!」


 叫びながらモンスターの脇腹から反対側の肩を一気に切り裂く。大きな血しぶきを出しモンスターはうつ伏せに倒れた。


 全ての力を出し尽くし、息が苦しい。膝を付き剣を地につけそれに体重を預ける。「はあ、はあ」呼吸が荒く、心臓がバクバクと鳴っている。モンスターに動きはない。Brynk越しにモンスターを討伐しましたというコメントが表示される。倒れたモンスターから、なにやら色のある球が出てきて視界の右上の宝箱のアイコンに吸い込まれるように入る。これが何かのデータになるか。あとで、宝箱のアイコンを開いてみよう。

 

 モンスターは体が土へと変化していき、風に吹かれ消えていった。


『おめでとうございます! 初めてのモンスター討伐ですね』


「ありがとう……じゃない! こら! なに眠ってんだよ、俺を殺す気か! 本当に危ないところだったぞ」


『大丈夫ですよ、まだHPもまだ24あるのであと2発の攻撃は受けられました』


 先ほど消えていたステータスが視界左上に浮かぶ。24という数字が赤色で表示されていた。


「お前が寝てたからそのステータスも見れなかったんだよ! しかも、それってあと2発受けたら死んでたってことだよね。1発受けて倒れた隙にもう1度食らってたら死んでたよね。だから、ほぼ死んでたよね。頼むから寝ないで……」


『寝ていません! 私は寝なくても大丈夫なんですって! それに、ほらレベルも上がりました。ステータスを見てみましょう』


 こいつはこれからも昼寝の事を隠し通すつもりなのだろうか。一度嘘を言って引くに引けなくなってるのは分かるが、流石にいろいろときついぞ。何度言っても聞く耳を持たないし、仕方がないのでステータスを確認。


 パラッパパラパー♪「レベルが上がりました」と、トランペットの音と共にアナウンスが入る。タータータラータータタターターラータータター。なんだか聞き覚えのある流れるようなBGMに合わせてステータスが表示される。


 ――――――――

 ウエノ・ミライ 28歳


 職業:超獣ハンター

 レベル:2

 HP :126 (+92)

 MP :158 ( +103 )

 攻撃力:252 ( +102 )

 防御力:39 ( +18 )

 魔力 : 27 ( +22 )

 魔力耐性 : 17 ( +12 )

 素早さ :33 (+25 )

 かしこさ:25 ( +3 )


 特徴

 ハンターC級

 軍人C級

 魔力D級

 剣術C級

 オペレーターD級


 総合評価ランクC


 ――――――――

 

「お、すごい! かなりステータスが伸びた」


『訓練の成果です。今までの訓練もプラスされるのでレベルが上がった時のステータスの伸び率が変わります』


「よし! 訓練をする意欲にもつながるし、数値化するっていいな……ん? 剣術のタブに印がついているぞ」


『先ほどの技が剣術として登録されたんです』


「それはすごい。これからは、いつでもあの技が使えるということか!」


『その通りです。わずかレベル2でスキルを覚えるなんて素質ありますよ』


「ありがとう! なんだか嬉しいな」


 剣術を表示した。空白の枠内の左上に"ミラクル・プリリー【必殺技】" と書かれていた。


 目をこすり見直す。「……なんだこれは」


『必殺技! まさかレベル2でそれを覚えるなんてすごいです。私もアドバイスはしたのですが本当に剣術が発動すると思ってなかったし、まさかそれが必殺技になるとは考えてもみませんでした』


「いや、それはいいのだが、ミラクル・プリ……リ? とやらは何?」


『それは、その技を初めて発動した時に叫んだ言葉です。その言葉が技の名前として記憶されるんです』


「ちょっと待て! 何だその恥ずかしい技の名前は! どんなセンスだよ! 叫んだ言葉? そんな言葉言ったのか……興奮していたから記憶がないぞ」


『しっかりと言いましたよ。すごくかっこよかったです。しびれました! 昨夜から名前を考えていたかいがありました』


「やっぱりお前の仕業か! 確かに、何か言葉を叫んでと言われてそれを叫んだような……ちょっと待て、それは、これからその技を使うたびに叫ぶ必要ないよな」


『叫ぶ必要はありません』


「よかった」


『そのタイミングに合わせて口ずさむだけでOKです。動作に合わせて大きく叫んだり、感情を入れると威力は上がります』


「結局叫ぶのかよ! そんな名前の必殺技にどんな感情を入れたら良いんだ。どこでスキルの名前を修正できるか、早く教えろ!」


『修正はできません』


 持っていた剣を地面に叩きつけた。


「おい! ふざけんな! こんな名前恥ずかしくて使えるか!」と怒鳴る。


 ミラクルは思いがけない反応をされて言葉が出ない。

 

 怒りで肩を震わせていたが、落ち着かせて「まあいいや、1つ目の習得スキルが2度と使えないスキルになってしまっただけだ」と諦めた。


『何をおっしゃっているのか分かりませんが、この必殺技というのはその人につき1つだけです。普通の剣術スキルとは違い、必殺技はレベルや攻撃力、または強い感情によって与えるダメージが大きく変わります。永遠に使い続けられるスキルですよ。それをレベル2の時に習得するということはこれからレベルが上がるたびに強くなるんです。本当にすごいことなんです! 普通ならレベル30や50でようやく覚えられるはずなんですが、それよりも桁違いに強い技となります!』


「そうか、全然嬉しくない。終わった。早くこのクソゲームをリセットしたい。ゲームの記録を消してスタートからは選べないのか」


『何をおっしゃってるのか分かりませんが、これはゲームではありません』


 もう帰るわ。


『それがいいでしょう、怪我もしていますし』


 家に着きモンスターを1人で倒したのに暗い顔をしている自分を見て、テワオルデさんが、この人は大物になると勘違いした。

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