第36話 訓練


 朝早くから剣術の稽古に入った。


 着陸した船内には最新鋭の武器の多くに剣やハンマーなどがある。ここの惑星は空中に浮かんでいる緩衝材が濃く、銃では超獣を死傷させられない。敵からの攻撃を守るためにした事だが裏目に出てしまっている。


 ただ、超獣も火器の使用が限定されるから、人的被害を抑えるのには役に立っている。お互い近接戦を強いられるようだ。


『素振り300回目です。その調子です』とミラクルは頭の中に話しかける。


「ありがとう、数を数えてくれて。そして朝まであなたの歌を聴いていたから調子がいいですよ!」と皮肉を言う。


『一晩中歌を唄うくらいいつでもできるので言ってください』と胸を張る。


 ありがとう……でも当分大丈夫です。このAIは寝ることがないのだろうか。


『AIではなく、ミラクルです。私を誰だと思っているんですか! 寝る必要なんてありません! すごいでしょう』


 頭を抱えながら、すごいねと褒める。24時間このお喋りが続くなんてまるで拷問だ。


『何か言いました? 失礼なことを言うと、耳もとでまた大声で叫びますからね』


 それはやめてください。頭の中を読まれるので、無心になるしかない。


 ………。


 ……。


 …。


『ちょっと! 無心にならないでくださいマスター。音がないと寂しいんです』


 ……了解しました。


 仕方がない。素振りの数でも数えるか。342……343……。息を整えながら繰り返す。汗が刀を振るたびに飛んだ。


 睡眠不足だったが、ようやく集中してきた。AIも静かになったな。今のうちだ訓練に打ち込もう。


『スーピー、スーピー』


 ……なにか聞こえるな。


『グォー……ピースカ……。グォー……ガー』


 ノイズだろうか。耳を凝らして音を聞く。


『スーピー……スーピー……う、う、も、もう食べられない……スーピー』


 おい! 寝てんじゃねーか! 思わず剣を止めて肩を落とした。おいおい、寝ないってのはどうしたんだ。


 これから俺はこいつのいびきを聞きながら過ごすのか? 


 起こすとうるさそうだから我慢するしかない。


 緑が広がっている林の間の砂利道の上、ジョギングで汗を流す。そして筋トレ、さらに体術の訓練など。休憩も挟みつつ以前軍隊で訓練法したとおりに行動した。その間、寝息のイージーリスニングが頭の中で永遠リピートされる。


 昼食をとっているときに、ミラクルはようやく目覚めたようだ。


『あ……ふぁ――。フー……ん? あ、素振り終わったんですね。ふぁー……おふかれ様です』


 本当に疲れました。ありがとうございます。


『あ! 寝てませんからね! 私も訓練の一貫として瞑想していたんです。少しの間無言ですみませんでした』


 無言じゃなかったけどね。本当に無言でいてくれるなら3日ほど瞑想し続けてほしい。


『寝てません! 私を疑ってるんですか?』


 分かりました。疑わないので何か俺の役に立ってください。


『では、訓練も初日ですがマスターのステータスを表示しますね』


 なるほど、そういえば以前、把握機能があるって言っていた。これもその機能だろうか。


『いえ、把握とは違います。本人の筋肉量や精神力をパラメーターにしているんです。本人以外のデータを測ることはできますがステータスの明細までは分かりません』


 そうですか、失礼。では映して。


 視界の左上に空間モニターが現れて数値が並ぶ。


 ――――――――

 ウエノ・ミライ 28歳


 職業:超獣ハンター

 レベル:1

 HP:34

 MP:55

 攻撃力:150

 防御力:21

 魔力 : 5

 魔力耐性 : 5

 素早さ:8

 かしこさ:22


 特徴

 ハンターC級

 軍人C級

 魔力D級

 剣術C級

 オペレーターD級


 総合判定ランクC


 ――――――――


 ほう、なんだか古いRPGみたいだな。


『分かりやすく数値化するとこうなります。特徴が多いですね。5種類も持ってる人なかなかいないです。D級はまだ戦闘で使えるレベルでは無いですけど』


 そうか、訓練すればレベルが上がるってことだな。


『訓練だけでは上がりません。超獣モンスターと戦えば経験値が増えます、一定の経験値に達した時、レベルアップします』


 モンスターを倒さないと数値は上がらないというわけか。それではまずモンスターを見つけなければならないな。そもそも、俺の力でモンスターを倒せられるのだろうか。


『マスターは最新鋭の武器をすでに持っているのでランクCのモンスターなら倒せるはずです』


 以前、モニターで見たランクCのモンスターを思い出す。相当凶暴そうな風貌ふうぼうだった。手に力が入る。


 この家の管理人の名前はテワオルデさんという。帝国軍とは関係していないがハンターの援助を行なっているらしい。なにやら昔は名の知れた軍人らしく、今は隠居しているらしい。姿勢の良さや立ち振る舞いでなんとなく想像がつく。


「テワオルデさん、この辺でモンスターはどこにいるんですか?」


「訓練お疲れ様です。朝早くからよく頑張っておられる。超獣退治に行くのですか? まずは市街地で登録を済ませないと、報酬はもらえません。あと、いくらウエノ様が強くても1人では危険です。4人のパーティーを組んで挑戦してください」


「そうなのですか、思ったより複雑ですね。経験値を稼ぎたいだけなのですが」


 頭の中にミラクルの声が聞こえる『必要ないですよマスター。危険ですがC級くらい1人で十分です。それに登録しなくても報酬がもらえないだけで訓練にはなります』


 なるほど、一応テワオルデさんに聞いてみる「最初は報酬なしでもいいので、訓練とレベル上げのために戦いたいのですが、ダメでしょうか」


「そうでしたら、この近くの湖に知能の低いモンスターがはぐれているのでちょうど訓練になります。危険性は少ないです。報酬も低いですがそもそも必要ないなら、ちょうどいいでしょう」


「ありがとうございます。それではある程度武器の使い方に慣れたら行ってみます。この家にはどのくらいお邪魔してもいいんですか?」


「いつまででも大丈夫ですよ。お好きなだけいてください」


「助かります。でもお礼が今できなくて……」


「お礼など要りません。私が戦えない分、ウエノ様のようなハンターに奉仕するのが私の仕事ですから。もしハンターの仕事で多くの報酬をもらえた時は、少しでもご寄付をいただけたら、それが次の新人ハンターにつながりますのでよろしくお願いします」と笑顔を見せる。


「ありがとうございます。もちろんです。報酬をたくさんもらえるように頑張ります」


 それから一週間訓練の日々が続いた。どちらかと言えば剣術や体力訓練よりも、夜中に始まる合唱大会や、朝から昼までのいびきの方が精神を鍛える訓練となった。


 寝るとHPとMPが回復する。最近は夜は残りのMPを使い魔弾を作る。


 魔弾を作り、マシンガンのマガジンベルトに1つずつ装填する。集中力の必要な作業でこれ自体が魔力を上げる訓練にもなる。


 マシンガンの弾は数に限りがあり、いずれ尽きる。軍用のマシンガンなのでこの惑星で銃弾が売っているかどうかもわからない。闇市などにあるかも知れないが値段も高いだろう。


 それに、普通の銃弾では緩衝材が効いて効果が薄いらしい。軍用のマシンガンはそれを超える威力があるが、魔弾はそれ以上の効果を望める。


 寝室の壁に寄りながら、一個一個魔弾を詰めていく。ミラクルの歌声が頭に響き心地が良い……。好きだね、その歌本当に……。その奇妙な歌を一言一句全て記憶してしまいそうだ。


『みーらくる・すたーらいーとー♪ きぼーーをだいしーめーてー♪ またたくーほしぼじがしめすみちーーここーろーのこえをーしんじてーぜんーしーんしようーー♪ (Bメロ) とーきになみだもーながれおちーるけーどぅー♪』

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