第35話 マジカル・スターライト


 30分後、船は無事、目標の山へと着陸態勢に入った。このAIを褒め続けて、なんとか機嫌を直したAIはまたモニターを復活させてくれた。AIだと言って無下に扱ってはいけないと学んだ。


『当たり前ですよマスター! マスターだからといって横暴は許しません』


 はいはい、すみません。


は1回!』


 どっちが横暴なんだろうか。なぜAIに説教をされないといけない。おっといけない、また機嫌を悪くされる。ありがとうAI様。


『AI、AIって言いますけどね、私はミラクル・スターライトって名前があります。実は強い魔法少女で悪をやっつける正義のヒーローなの! すごいでしょう!』


 す、すごい。相当面倒なやつだ。このAI絶対壊れてるよな。


『壊れてる? 次に、失礼なことを考えたらこの船を不時着させますからね。本当ならミラクル様って言って欲しいんだけど。マスターはミラクルって呼んでいいです』


 ありがとうございます! ミラクル様。不時着だけはやめてください。と心から願う。リラさんとリスティルの悲劇が忘れられないのに調子を狂わされる。


 特殊睡眠カプセルに入った当初は様々な夢を見たが、最後にはどうしてもあの悲惨な事を思い出し、そして感情が激化して強制的に思考停止される。そんな中このミラクルというAIが現れた。


 特殊睡眠カプセルの中は夢と現実の挟間のような世界だった。今自分は夢を見ていると分かっている状態で、カプセルで寝ているなど現状を把握している。


 痛覚などの感覚は無いが、心で感じる苦しみの辛さや喜びの気持ちよさは感じとれる。最初は過去を思い出したり、寝ている夢のような事実とは異なる世界が出たりした。


 その後、真っ白で無機質な世界に自分が立っているのが分かる。そしてこのミラクルというAIにBrynkについての説明や戦闘方法などを教わった。その真っ白な世界では、時に訓練の場となり、そこで走ったり標的を破壊したりできる。Brynkのチュートリアルができる場所となっている。


 だが、その時からこのAIに違和感をもっていた。睡眠カプセルの中にだけ出てくるAIだと理解していたのだ。

 

 このAIは自我が設定されているらしく直接コントロールができない。さらにおかしいところは、自分が直接Brynkの操作をするのではなくこのAIが間に入って操作する仕様になっている事だ。


 最新鋭のBrynkはAIがコントロールするものなのか? だがこんな魔法少女の設定という、濃いキャラのAIを全てのBrynkに入れているはずがない。頑強な軍人が彼女と話しながら戦場で戦っているのは、想像するだけでばかばかしい。


『濃いキャラっていうのは誉め言葉として受け取ってあげます。さあ、マスターもう少しで到着します』


 こんな調子だ。こちらから質問などしていないのに脳内に勝手に話しかけてくる。


 モニターに山が映る。徐々に艦体が近づいて行き、大きな土ぼこりをあげ船は着陸した。




 艦内での振動は皆無だった。


 船が完全に止まり土ぼこりが落ち着く。


 ーーしばらくすると自動でドアが開く。


 高速船から外に出ると景色がまぶしかった……。


 すぐ近くに大きな家があり、そこには人が待っていた。


「お待ちしておりました。ウエノ・ミライ様」壮年男性である彼は白いひげを伸ばし姿勢が正しい紳士であった。周りを見渡しながら言った。


「リラリース様はどちらですか?」


「い、いや、それが……」俺が暗い顔をするので、それだけで紳士は大部分を悟ったようだが、詳しく説明をした。


「そうでございますか……それは辛いことですが、あなたを助けるために人命を果たしたのでございますね」


「はい」下を向きこぶしを握る。


『ねえ、ねえ、こんなおっさんとの話はどうでもいいから! 早く次に進んで。つまんないんだけど』


 うっせぇなこいつは! おっといけない。自分の頭の中だからか乱暴な言葉になる。あ、でももう不時着はできないからこの子に媚びを売る必要ないのか。黙れ!


『……酷い! 酷いよこんなに頑張ったのに! ぐ……ぐす、えーーん!』


 なんと泣き出した。おいおい、どうすりゃいいんだよ。謝ればいいのだろうか。本当にAIなのかこれは? このBrynkは耳の裏から頭に入り込んでいるので無理やり外すことも電源を消すことも出来ない。もうこの装置は必要ないと、どうしても考えてしまう。


 自分が下を向き、悲しい顔をしていたと思ったら急にイライラしだしているのを見て、紳士は怪訝な顔をしている。


 あーもう。俺がおかしいやつだと思われるじゃないか。いい加減にしろこの欠陥AI!


『…………』


 泣き声がやんだ? 言い過ぎたか。なんだか怖いぞ。


『えーーん!!! バカぁ!!! えーーーーん!』


 さらに泣いた! あまりの大きな泣き声に頭が割れるように痛い。勘弁してくれ! 両耳を抑えて座り込む。


「ごめんなさい! もう酷い事は言いません! ミラクル様!」と叫んだ。


 紳士は怪訝な顔から唖然とした顔になり。何かを悟ったのか涙をこらえながら「辛かったんですね」と、慰めてくれた。やめてくれ、俺はショックで頭がいかれたわけではないと弁解するのに苦労した。


 ミラクルは泣くのを止めていた。まるで頭の中で子供を育てているようだ。最強のBrynkと聞いた。だが、なぜこんな子供っぽいAIが、間に入っているのだろうか。


 それからはその大きな家で何事も無く時は進んだ。


 夜、静かな夜空だった。


 その大きな家に数日泊まらせてもらうことになった。窓から星の光を見ながら目を閉じた。


 少し開いた窓から涼しく心地のいい風。心が落ち着ち深い眠りへと落ちていく。


 ……。


『ゆめーみーるーちからが♪ 心を照らすーー! ミ―ラクル・すたーらいーとー♪ あなたーの奇跡をーしんじーてー♪ (Aメロ) そらー…………』


「……ごめん、ミラクルちゃん。どうしたの? 急に歌いだして」


『これはね、私の歌なんだよ! この歌を歌うと力が湧いてくるんだ。マスターも一緒に歌わない?』


 い、いや……。普通AIって打てば響く太鼓のように聞き手専門ではないのだろうか。勝手に話しかけてくるってどうなの、それも迷惑を考えず夜更けに勝手に歌い出すって何? 誰かこのBrynkの電源の落とし方を教えてください。

 

『ひかーりーのせんし♪  みーらくる・すたーらいーとー♪ きぼーーをだいしーめーてー♪ またたくーほしぼじがしめすみちーーここーろーのこえをーしんじてーぜんーしーんしようーー♪ (Bメロ) とーきになみだもーながれおちーるけーどぅー♪ つよさーはここーろにやどるーぅー! ふあーんとたたかいーながーらー、あーなーたーのゆめをーおいーかけるー♪ (コーラス) みらーくーるー! すたーらーいとー♪ ゆめみーーーー…………』


 一晩中頭に歌が響き渡り、結局一睡もできなかった。


「だーーうるせーー!」

 

「どうかなさいましたか、ウエノ様」


 …………。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る