第34話 Brynkに住まうAI


 惑星ルシュズ・アブズの人工大気圏突入前に、高速宇宙船内の特殊睡眠カプセルが開き、ウエノ・ミライは目を覚ました。

 

 悲しいという気持ちは無い。3か月の間長い夢を見ており、その時に涙は枯れ果てた。

 

 惑星に着陸するための準備はされていた。惑星ルシュズ・アブズに近づくと、人工大気圏近くで入惑星検査が行われる。それに、なんなく通る。焼けただれ悲惨な内部の宇宙船。それを、予想外にすんなりと受け入れてくれた。

 

 ここは帝国軍の力の及ばない惑星。自分の顔を鏡で見る、Brynkブリンクが完全に体にマッチしている。ヘルメットの様な器具を必要としない。そして3か月の夢のような世界でその使い方も完ぺきになるまで学んだ。


 着陸のため、乱雑になっている椅子を手に取る。椅子を直しそこに座る。モニターと繋げる。


『はーい! こんにちはマスター! ご要望は何でございますか?』


 脳内で甲高い声が響く。


 このAIによる自動案内音声設定は以前何度か消そうとしたが出来なかった。出来るだけ早く音声が消えるように脳波でのコントロールを急ぐようになってしまった。


 当初はコントロールすると声が途中で消えたが、最近は最後まで言い切るようになった。AIにもプライドがあるのだろうか。


 部屋全体がモニターになり惑星に近づいてるのが見える。意識を使いその距離をつめる。まるで鷹が獲物をクローズアップするように、モニターも到着位置を拡大させる。


 宇宙船が着陸するのは山の中。自然が生い茂っている。環境の自然化に成功している惑星なんだなと思った。元々岩石しかない惑星では人口大気圏や酸素などをうまく使っても、その惑星独特の影響により自然環境を整えるのは難しい。人の住むビルや公園など人工建築物を作る方がよっぽど楽らしい。人が住んでいない所にも手がかかっている裕福な惑星と言っていたのも納得だ。


『マスター! 何考えてるんですか? こんな何もない所を見ながら考え事しないでください』と、AIは勝手に脳内に話しかけてきた。


 集中力を切らすのがこのAIの仕事なのか?


『そんなわけないじゃないですか! マスターの成功の手伝いをするのが私の仕事ですよ』


 このBrynkに備わっているAIは自分の脳波を読む。俺の考えていることがすべて分かってしまう。その上で勝手に会話をしてくるという訳だ。壊れているのか知らないが、AIとの会話機能をオフに出来ない。とにかく、子供のような甲高い音声を小さくしたい。


『分かりました。静かにします。だけどそんなふうに言われると傷つくんですからね』と、AIはイライラしているようだ。


 最新鋭のBrynkとリラさんは言っていたはずだ。どうして、こんなふざけたAIが搭載されているんだろうか。


『ふざけたAIってどういうことですか。もういい加減にしてください! モニター消します』


 部屋全体に移っていた船外の映像が消える。ついでに船内のライトも薄暗くなる。ちょっと待ってくれ。特殊睡眠カプセル内で3か月にわたり脳内で様々な機能を試すBrynkの調整とチュートリアルをした。


 このおふざけなAIはそのチュートリアル用に作られた失敗作だと勝手に考えていたのだ。まさか……実際に使用する際もこのが出てくるとは思わなかった。


 と考えた途端に船内のライトは全て消されて真っ暗になった。


 このAIと仲良くやっていかなければならないのか――――。

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