第29話 コーヒータイム3


「13年前のルルゥの悲劇を知っているでしょ」


「もちろんです。受精卵から子供までの成長を促進する星【生誕星】ルルゥの破壊の話ですよね。それにより胎児から10歳までの子供たちの多くが宇宙のちりとなってしまった。西側が行った人類が起こした史上最大で最悪の惨事です。決して許せない」


「そうなの。でも、その原因が私たちにあったらどうする」


「そ、それは戦争中ですから。相手が狙う理由は分かります。ですが、それは絶対にやりすぎです!」


「そうよね。こんな極悪非道なことをしてしまうのは、戦争中としても絶対許されることではない」


「はい! 悪いのは西側です。自分はその話を聞いてどんな罰でも与えるべきだと思いました」


「じゃあ、こちら側がすでにをしていたら?」


「え? 何を言ってるんですか?」


「ルルゥと同じ生誕星である西星連のマククルス。その破壊と原因には東西により情報に大きな違いがある」


「あの、史上最悪の事故という歴史ですか」


「そう、そのあとすぐにこの宇宙戦争が始まった」


 自分がその言葉の意味を思案する前にリラさんは続けた「まず東星連がどこの防衛を厳格化したと思う?」


「分かりません。帝都とか拠点惑星などですよね」


「ルルゥ」


「それは……。そうだったんですね。だけど、生命の源を守るのは当たり前です」


「東星連は報復を恐れたのよ」


「報復?! 先にしたのは東星連だった? 事故だったんじゃないんですか。第一あの時に西星連の奥深く。最大拠点惑星である"大検"を超えた先"土青"の隣の群星連エリアにある生誕星を落とせるわけありません。戦争前ですよ。なぜそんなことをする必要があるんですか!」


「もちろん、そんなことできるはずがない。では、私たち軍の指令部レベルの人が得ている魔法少女の情報を言うわね」


「は? はい……」全く意味が分からない。何を言いたいのだろうか。


「さっき、あなたは宇宙全体に潜伏していると言ったわね」


「はい、それはリラさんの話し方がそのように聞こえたので」


「そうね、今の質問は意地悪だったわ。西も含めて魔法少女はまだ半数も見つかっていないの。この戦争の最後は必ず彼女たちの動向で決まると言っていいわ」


「はい」全く納得がいかないが話の腰を折ることもできずとりあえず相槌で返す。


「見つかっていない魔法少女は残り628名いる」


「そうなんですか。具体的な数字も知っているんですね」


「それは、具体的な数字を教わったから。本当は20万人以上いた。だけど全員を仕留めることは出来なかった」


「何を言ってるんですか?」


「西星連の生誕星マククルス、年間4兆人もの人を誕生させる。東側のルルゥよりも大きな生誕星。胎児から新生児、そして乳児から、免疫やある程度の学力をつけるためカプセルの中で10年間生活させる。そして射出カプセルにより目的の惑星へと自動的に送られる。それが1日20回。5億人が一斉に射出される」


「それは知っています。歴史や現代科学の学問として習いました」

 

「マククルスは起源歴3000年4月8日ちょうど午前8時00分に開始した第562,062回目の射出。5億2660万人ほど目的の惑星へと射出された。そのカプセルの中に第一期目の誕生である魔法少女が208,015名がいた。本当はそれが始まる前に破壊をすべきだったけど間に合わなかった。それで魂が2つ入ってる子供を探したがその能力は隠蔽されていた。実際に本人たちも自分が魔法少女だと分からない。完全にその能力は隠されていたの。仕方がなく射出されたカプセルの全てを破壊することにしたわけ」


「は、はぁ……」話の内容が入ってこない。いや頭に入れたくない。彼女は何を言っているんだろうか。そんなこと信じられるわけがない。


「意味は理解しなくてもいい。だけど最後まで聞いて。その後、軍隊の活躍によりその時に射出された9割以上のカプセルを破壊した。数光年の距離を飛んで目的の惑星に到着する寸前に破壊したカプセルもあったそうよ。そしてその残骸全てを回収。死体からは魂の残骸が見られるの。2つの魂の痕跡を持った体は206,926個確認できた。結局1086名逃してしまったことになるわ。いまだに東西は発見、回収を急いでいる」


 自分は何も言えなかった。ショックを受けている顔を隠すことすらできない。その反応を予測していたのか彼女は顔色ひとつ変えずに話を続けた。


「だって仕方がないでしょう、400万人もの魔法少女をその星で生成していたのよ。1人の力で惑星1つを破壊できるほどの強力な力を持っている。そんなのを見逃すわけにはいかないでしょう」


 なんとか声を振り絞って「それが戦争のきっかけとなったわけですか」と聞いた。


「戦争はもう始まっていた。なぜ西星連がそんなを作っていたかは歴然。宇宙征服のため。それを阻止するのは当然でしょう」


 もう何が何だかわからない。何が悪で善か判断などできなかった。少女が……少女?


 ハッと気がついた「もしかして、あの包帯だらけの少女って魔法少女!?」と叫ぶように聞いた。


「そうね、彼女は魔法少女よ。あなたが力を発揮させるまではただのだったけど」


「そんな、そのために傷をつけたと言うのですか」


「ショッキングな話になるわね。でも可能性があるなら仕方がないし、実際は本当にそうだった。特殊な感情を起こしたときにその隠蔽された力が解放されるとなっている。可能性があるだけで無下むげに処分するわけにもいかな……」


「狂ってるよ! あんたたちは!」感情が溢れて止まらなかった。涙が流れている。でもそんなショックなことを聞いてどうして欲しいのだろうか、何もするなと言うのだろうか。たとえリラさんであろうと殴り倒す場面だったかもしれない。


「ごめんなさいね。でも。あなたには嘘をつきたくなかった」


「リラさんも辛くて逃げたわけですよね。でも、許せない。自分はこの宇宙に正義はないとしか考えられない」強くこぶしを握る。


「その通りかもね。今日は話し過ぎた。私はここで寝るわ。あなたは空いてる部屋でゆっくりと休んでちょうだい」


 興奮が止まない、もう一言二言大きな声を出したかった。だが、リラさんに怒りをぶつけて何になると言うのだろうか。唇を噛みながら「はい。少し休ませていただきます」とだけ言った。


「申し訳ないけど、時間はあと2日しかない。明日は私たちが向かっている惑星での生活や仕事の話よ。つらいだろうけどしっかりと聞いて欲しいの」


 自分は逃げるように中央ホールから出た。そしてリスティルが寝ている部屋を確認してから自室に入る。真っ白な部屋のベッドで横になる。

 結局、その夜はほとんど寝られなかった。それは、コーヒーのせいだけではないだろう。

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