第30話 惑星ルシュズ・アブズ
次の日リラさんはいつも通りだった。
昨夜の話に自分はショックを受けていたが過去の話である。それに誰が悪いかなんて分からないし、第一自分には関係がないではないか。
2人で幸せに暮らす。それ以外考える理由などないのだから。だが、昨日の話を聞くに2人で平和に暮らすなんて遠い夢のような話に思えてくる。
『そんなことではダメだ。心の中の弱いものを追い払わなくてはいけない! 幸せのために努力をするんだ。頭の中の油断を全て捨て去れ』
顔を洗い食事を済ませると、前日言った通り、これから向かう惑星ルシュズ・アブズの話を始めた。
ちなみにリスティルはまだ個室で監禁している。今朝一度部屋から出してみたが、案の定中央ホールを喜んで走り回り重要な機器に、ウレションならぬ、ウレ電気ショックを浴びせやがった。なんとか2人がかりで捕まえて、また同じ部屋に押し込めておいた。
モニターには惑星ルシュズ・アブズの映像が流れる。さまざまな人種がいて平和そのものに見えた。その人種の中には軍隊にも劣らないほど強靭な肉体を持つ獣人や、人並はずれて動きが速いものや、魔力が並はずれて強い獣人もいる。一般レベルでこれなのだから軍部もより強力だ。軍の大半は激戦地の防衛に遠征しているが、惑星自体を守っているのは精鋭部隊だ。敵にとってここを苦労して落とすメリットはないらしい。
リラさんは話を続ける「敵は最近、直接惑星を攻めるのではなく、徐々に防衛側を疲弊させる方針にシフトしているようね。特にこの惑星のような攻め込むにはメリットがなく、かつ平和のままでは
「ミサイルを打ち込んだり、ウイルスを撒いたりするということですか?」
「それも対策が難しく効果的だけど、いずれ
「生産施設?」
「超獣というモンスターのようなものを生み出す生産施設ね」
おかしな話を始めたぞ。モンスターだって?
2人の間の空間モニターに超獣の画像が映し出される。
見た目はゴリラのようだが、爪が鋭く牙がある。他にもさまざまな動物に似ている超獣の姿が映し出される。明らかに凶暴そうだ。
「近寄りたくないですね」
「超獣の生産施設ではこのようなモンスターが次々と生み出される。」
「なぜ生産施設を叩かないのですか?」
「時すでに遅しなの。5年ほど前に敵の艦隊がこの惑星に総攻撃をかけてきた。3ヶ月もの激戦の末、敵の戦艦をいくつか大破させ、さらに旗艦に大きなダメージを負わせ撃退した。だけど実はそれは陽動で、密かにこのような生産施設を惑星の地中に埋め込むのが主目的だった」
「地雷よりも、相当危険ですね。でもミサイルか何かで破壊できそうですが」
「それが簡単にはできないようになっている。超獣生産施設は横に15メートル、縦に80メートルくらいある円柱状の形をしていて、下部が細くなっている。まるで
「敵も考え込んでいるのですね。でも、その生産施設を大量生産して打ち込み続けたら簡単に惑星を滅ぼせそうですが」
「その対策はすでにしてある。新たに打ち込んだり、似たような装置を設置したりすることはできない。即座に発見し破壊する兵器を作ったから」
「なるほど、対策の速さはさすがですね」
「だけど、主力の軍部は惑星防衛をしていて動けないし、多くは遠征に行っている。なので、小規模な軍隊や傭兵がその害獣を倒し続けなければならない」
「かなり地道な作業ですね」
「手作業で一個ずつ地雷を処理するくらい途方もなく時間のかかる作業よ。それに危険で毎日のようにたくさんの犠牲者が出ている。だから、惑星では超獣退治に多額の報酬を出している。放っておくと人に危害を加えて、生態系も崩す。その惑星レベルに合った動植物の繁殖の苦労が水の泡になるわ。だから放っておけないし、莫大な予算をかけて除去をしている。特にここの惑星は裕福だから、懸賞金も大きい」
「なるほど。え……、まさか自分たちがその懸賞金を稼ぐんですか?」
「そう、ハンターよ」と微笑む。
モニターに映っている超獣は今でも人を食い殺しそうだ。
「そ、それは楽しそうですが、普通の仕事も探したいな」と引きつった顔でやんわりと拒否をした。
「だめよ」リラさんは意地悪に笑いながら言い、「生活のために頑張ってもらうわよ」と続けた。
「もちろん頑張ります! でも、自分の軍隊での訓練期間はわずか半年です。こんな凶悪そうなモンスターを相手に戦えるでしょうか」と自信無さげに言った。
「出来るのよ、それが」
「どういうことですか」
「この最新鋭の超高速船には、最新鋭の兵器とBrynkが積まれている。これで超獣なんて簡単に倒せる。最強の帝国軍が誇る最強の兵器で超獣退治に使えばチート級よ」
「チート級! それを使えるなら話が違います」不安な顔から一変して笑顔に変わる。
「プラズマ弾に熱源刀。Brynkには自己機能向上システムも、魔法のようなサブシステムもある」
「魔法?! 自分でも使えるんですか」
「訓練次第ね。このように」
リラさんの手のひらを上に向ける。そこから小さな火がぽっと
「どう?」
「す、すごい」
リラさんは
「自分もやってみたいです。すごい!」
「リスティルの放電とは違うメカニズムによるものみたいだけど。訓練次第では強力な攻撃手段になるわ」
「この武器と魔法を使っていけば超獣でお金持ちになれる!」
「稼ぐわよ。超獣はいくらでもいるし、毎日倒し続ければ平和も守れる。この惑星には32個の超獣生産施設があると報告されてる。ランクがCからSまであって、ランクCでも施設の破壊をすれば大金が入る。クラスCを破壊すると億万長者よ」とリラさんは鼻を鳴らしながら言った。
胸が躍る。前日の悪夢のような話は忘れて明日の幸せを考えよう。最高な人生は未来に広がっているんだ。
「リラさんもお金持ちになりたいんですね」と笑った。
「当り前じゃない、お金持ちになりたくない人なんていないわ。豪邸に住んで、宇宙中の高級酒を集めて、そして毎日幸せに暮らしたいわ」と笑顔を見せる。
「お酒か、なつかしいですね……。やっぱりこの時代でもお酒はあるんですね」
思い返すとこの未来に来てから学校での生活や軍隊の戦艦での訓練だのと、あと監禁、軟禁生活ばかり。アルコールからほど遠いところで生きてきた。
「もちろんよ、軍隊に入ってからはほとんど飲んでないけど。こう見えても結構お酒は強いのよ」
「本当ですか。自分も意外と飲めるんですよ」と2人で笑う。
リラさんは少し真剣な顔をする。「飲む?」と聞いてきた。
「ここにあるんですか?!」
「
ごくりと唾を飲み「もちろんです」と答えた。
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