第28話 コーヒータイム2


 惑星内の映像を見て驚いてる自分にリラさんは説明した。


「ここはルシュズ・アブズという惑星で、GTナコン-997αという恒星系にある。あなたが解凍された惑星レグルスから7光年離れているところにある。同じグリス236F群星連合の東のはじにあるわ」


「リスティルのような獣人ってこんなに沢山いるんですね」


「この惑星では沢山いるわね。でも、宇宙全体から見たら結構珍しいのよ。グリス236Fから北東方面にある研究学術惑星から獣人は誕生したと言われているわ。ルシュズ・アブズはその近くにあるので影響が大きいわけ」


「研究学術惑星?」と、コーヒーをすすりながら聞いた。こんなに気持ちにゆとりが持てるのは数日ぶりだ。先ほど、リラさんは帝国軍の追ってを振り払ったと宣言した。そして、この超高速船が最高速度に達するまであと3日かかるという。最高速度に達する前に、特殊な睡眠カプセルに入らなければ体に異常をきたすらしい。なので、あと3日は今後の方針と学校の歴史では教えてくれない軍の上層レベルの情報、そして今現在の戦争の状況などをゆっくりとコーヒーを飲みながら話す。


 3日間もリラさんと一緒にこの狭い船内でどのような生活を送ると思うと、期待して重要な情報を聞き逃しそうになる。気を取り直して質問をする。


「その研究学術惑星が開発などを行なっている訳ですか」


「そう研究学術惑星と言われている惑星が387個ある。それらの惑星すべてが9つの群星連合の中にあり、その地域を特殊研究宇宙域と呼んでいる。西星連や中央連にこのような宇宙地域はないわ。真似はしようとはしているみたい、だけどうまくいっていないようね」と言い、それに対して相槌を打った。


 リラさんは続けて「特殊研究宇宙域の範囲は北南に120光年、東西に95光年の範囲で広がっている。全体で人口28兆人以上で、有人惑星が1千以上、有人コロニーは5万個以上ある。人口も、戦力も東星連最大地域になるわ」


「規模が大きすぎて想像ができません。その地域がここの東星連の東端なんですね」


「もっと東に極東部族と呼ばれている人たちの群星がある。頭のいかれている人たちだから近寄らないことね。戦争が始まるずっと以前、平和で人が死ぬということもほとんどなかった時代。そんな時代から東側の宇宙の開拓を任されていた地域だった。もちろん宇宙は広いからここ以外でも宇宙開拓を担っていた多くの惑星がある。だけど、新しい宇宙を開拓するのって命懸けでたくさんの訓練をしても予想外のことばかり。それで、何も役に立たずに多くの人たちが死んでいく。だから宇宙開拓って平和な時代ではなかなか進まない」


「平和な時代に命をかける理由がないわけですか。そんなに有人宇宙を広げても見合った報酬がないんですね」


「そうなの、だけどそんな中でもこの命知らずの極東部族は開拓をし続けた。正確な情報かわからないけど、現在の有人宇宙に匹敵するくらいまで開拓範囲を広げているという話も聞く。彼らをコントロールするのは難しくて、この宇宙戦争にも本格的な参戦はさせていない。いつ後ろ首を取られるか分からないから」


「同じ東星連でも必ずしも連携が取れているわけではないんですね」


「そうね、実は私達がいた帝国軍の最高司令官であるヴァイゼネルもそこの出身。極東部族の幹部だったけど方針が合わなくて、宇宙戦争開始直後くらいに無断で多くの戦艦と仲間を引き連れてきたらしい。だから、今でも会うのは避けている。そして、極東部族の第7極東艦隊が東星連最強艦隊と言われている。それを、なんとか研究宇宙域軍部と東星連中央会議が暴走を抑えている。戦争に協力してくれたら優位に立つことができるけど、とにかく命を軽視する人たちだから難しいわね」


 想像するだけでも恐ろしい部族だなと思った。リラさんは続けて「私にとってはそれをコントロールしている研究惑星地域も、人体実験や化学の発展のために人を平気で犠牲にする頭のおかしな集団だと思っているけどね」

 

「その隣が今いる群星ということですね。そしてこれから行く予定の惑星ルシュズ・アブズはそのすぐ隣。少し恐ろしいですね」


「まあ、そうね。恐ろしく思ってもいいわ。でも今の戦争を支えているのはこの地域だというのも事実。今多くの宇宙域で激戦が絶えず行われているけど、常に敵の主力はここへの攻撃をしている。この特殊研究宇宙域を落とせば西側の勝利と言ったところね」


「こんなに東の端にまで主力を送っているんですか。後ろから挟撃みたいなことはできないんですか?」


「そんなことできたらとっくにしてるわよ。この戦争はすでに40年以上続いていて。数千の惑星がすでに西側に落ちている。多くの人が死にそして人質に取られている。主力を挟撃しても360°どの方向から伏兵がやってくるか分からない。相手には天才と呼ばれる戦略家が数万といる。簡単にはいかない」


「そ、そんな。それでは勝ち目なんてないじゃないですか」


「勝ち目がないわけではない。かなり厳しい状況だけどね。まず、敵側に降伏した数千の惑星は小さくてそれほど重要拠点ではない。いくつか重要な拠点も落とされて群星全体が降ったところもあるけど」


「群星っていくつあるんですか?」話の途中だったが気になって聞いた。


「群星連合は東側には90個ある。勉強してない?」


「あ、はい。勉強しました。その90個ある群星連合の北部から落とされていっているわけですか。私たちの群星は中央から南部にあるので被害が少ないんですね」


「そうね、でも一番の理由は隣に研究宇宙域があることよ。特に、研究宇宙域最大の"惑星レルガ2081"通称【水晶星】は、人口は1600億人を超えていて科学力は宇宙で一番と言われている。宇宙から見るとまるで水晶の様に輝いてるからそう言われている。それだけ影響力があるの。そして帝国軍が守っているというのも平和な理由よ」


「そんなに重要な傭兵団だったんですね。簡単に逃げ出してしまったけど」


「そうよ、でも今更後悔しても仕方がない。私たちは私たちの幸せを求めましょう」と、リラさんは笑顔で言ってくれた。自分の幸せ、これだけ酷い状況の中で、幸福のある未来はやってくるのだろうか。リラさんのいう通り後悔することはできない。


「東星連はなぜ攻撃に出ないんですか? 防衛ばかりで攻撃する戦力が足りないならこの戦争勝ち目は無いのではないですか」


「そうよね、学校の歴史で習ったと思うけど。歴史は東側の不都合な事実は隠されているから、全体を理解するのは難しいかもね」と、リラさんは目を一度逸らしてからまた話を続けた。

「当初は東星連が優位に立っていた。中央連と協力してかなり押していた。今から15年ほど前に決着をつけるために、敵の中央本部がある【土青どあお】という惑星を最大戦力で奇襲した。10万隻以上の巨大戦艦で攻めたの。それが大失敗。史上最大の戦果を相手に与えてしまった。死者行方不明数は145億人以上、総司令官、元帥など東星連の要となる上級士官も数十万人と亡くなった。それが原因で中央との連携も崩れてしまい、それ以降は西側に押されっぱなし。とうとう私たちの本丸、研究宇宙地域まで敵の戦力が迫ってしまったというわけ」

 

「そんな敗北があったなんて知りませんでした」


「だから私たちは、この状況の変更点となる大きなものを探している。それは神器とそれを扱う人。あとは魔法少女かしら」


「魔法少女?!」思わず大きな声を出してしまった。


「何をそんな素っ頓狂すっとんきょうな声を出しているの? 魔法少女のことを知っている?」


「いえ、あまりにも現実離れというか、場に合わない可愛い言葉が出てきたので」


「可愛い言葉? 魔法少女のこと? あなたたちの時代にも魔女がいたわよね」


「自分の時代には魔女はいませんが、中世に魔女狩りなどが流行ったみたいですね」


「ヨーロッパ中世の頃ね、魔女は悪魔のしもべとして恐れられていたらしいわね。脳科学が発達していない時代に魔法を使える人がいたとは信じ難いけど、そう言われている。魔法少女も同じく、悪魔の使いと言われている。だけど、魔女よりもずっと恐ろしくが悪い。人数が多ければ宇宙全体、人類全てを死滅させる力があると言われている」


「そんなイメージなんですか。自分のイメージでは悪をやっつける正義の少女と考えていました」


「私たち東星連に力を貸してくれて西星連を、追い払ってくれたらそうなるわね」


「でも、本当にそんな人がいるんですか」


「実際に戦争に何度か出ている。彼女達は西星連の実験で生まれたと言われている。この人たちが参加した戦争では全てがこちら側の敗北をしている。【土青どあお】での大敗北も、この子たちと神器のせいと言われている。逆にいうと神器と彼女たちがいれば、研究宇宙地域の宇宙最大の科学力も相まって逆襲ができるというわけ。現在、東星連では敵の攻撃を防ぎつつ、その探索を大規模に続けている」


「なぜ、西星連の研究である彼女たちを探索しているんですか? まるで宇宙に散らばって潜んでいるように聞こえます」


「まさしくその通りなの、彼女たちは"宇宙に散らばって潜んでいる"のよ。その説明をすると話はまだまだ長くなるわ」


「はい、自分もそのつもりで聞いています。まだ時間はたっぷりあるので」


 カップの中のコーヒーはすでに空になっていた。

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