第17話 脱出計画


 リラさんに両手をしっかりと握られた時であった。


 ――頭に映像が流れた。


 大人に暴力を振るわれている少女であった。


 暴力を振るわれているのは誰だろうか。


 あの少女か? いや、これはリラさんの幼少の頃の記憶だと感じた――。



 装置ブリンクから直接送り込まれた記憶だった。

 リラさんも驚いているようだ。誤作動なのか、それとも何か意図があるのだろうか。


 知られたくない過去を見られてしまい、顔を赤くするリラさん。その過去の映像についての言及は無かった。自分もそれに追及はしなかった。


 少しの間が空き彼女は口を開く。


「まず、この船から逃げる方法は沢山あるわ」

 

 いきなりの発言に頭が混乱する。相槌あいづちのない自分に不安な顔をして聞いてくる。

 

「大丈夫、しっかり聞いている?」

 

「え、あ……、はい。でもいきなり過ぎて頭がついていかないです。まず、リラさんは、ここから逃げても大丈夫なんですか?」


 その質問にすぐには答えない。少しの沈黙。

 

 彼女は上を向いて何かを考えているようだ。もしかして泣いている? いや、違う。ただ、感情のたかぶりを抑えているのは確かみたいだ。

 

「もう、これ以上ここにはいられない」真っ直ぐな目で自分を見ながらそう答えた。

 

「もしかして、あの包帯だらけの少女の事が原因ですか?」

 

 その言葉に一瞬、リラさんは険しい顔をする。それから、再び悲しい顔に戻っていった。

 

「少女もそうだし、あなたの同化実験のことも、ここから逃げなければいけない原因よ。この軍団は昔と変わってしまった。戦争が始まってからもうすでに45年が経ったわ、私のは戦乱で過ごしている。今生きているのも運が良かっただけかもしれない」とリラさんは言った。

 

 ただの謙遜だったかもしれないが自分は反論した。

 

「運が良かっただけとは思えません。それはきっとリラさんの能力が優れているからだと思います」

 

 彼女は深く息をつきながら、 「戦争で生き残るのに能力なんて必要ないのかもしれない。本当に能力が並外れて高い人なら別だけど、そこそこ高いだけでは逆に、命取りになる」と言った。

 

 「そう、そうなんですね……。ん? ……?」先ほどのリラさんの発言が引っ掛かった。

 

 恐る恐る聞いてみる。「リラさん今何歳なんですか?」

 

「女性に年齢を聞くなんて失礼ね」

 

 この未来の世界でも、未だ、男女の差の価値観を残しているのが意外だったけど、しかし、それよりも次に続く言葉に驚く。

 

 腕を組み、少し照れながら「87才よ、成人してから結構経つわね」

 

「そ、そうなんですか……」年齢の観念を変えないといけないとは分かっているが、年齢を聞くたびに新鮮な衝撃がある。


 思わず、「どうみても20代にしか見えなかったです」と言う。


 彼女は、自分の肩を、バンと強く叩き満更まんざらでもない顔で、「流石に20代はお世辞にしても若すぎるわよ」と弾む声で言った。


 ーー若く言われてすごく喜んでいる。そう思いながら、けっこう痛かった肩をさすりながら「はい」と答えた。

 

 

 以前に周りの人たちが、見た目よりもあまりに年齢が高いため、今まで住んでいた過去の世界との、時間や一年の長さに、ずれがあるのではないかと考えたことがあった。

 それに、様々な惑星に人が住んでいるから、自転や恒星との距離などの影響で差が出るのではないかとも考えたことがあった。

 そこで、先生に聞いたり装置ブリンクで調べたりした。調べた結果、標準時間は地球の過去の時間軸を基準にしているため、変わりはないと知る。だから、彼女は実際に87年間、生きて来たということになる。

 惑星やコロニーでの差や、超高速で進む宇宙船内の時間軸など、様々な矛盾が出るが惑星ごとの自転の操作や人口大気圏内の明暗の調整などでうまくいっているらしい。

 ちなみに、宇宙基準法で成人になる年齢は67歳らしい。

 

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