第16話 魂の夢


 夢を見る。


 魂の夢であった。魂は1人にである。それが例外的に、初めて1人にの魂が入った。きっかけは分からないし、いつからかも不明だ。生誕後は何も起こらなかったし、そのまま平凡に人生を終わらせる予定だった。


 しかし、あるきっかけが起こり、その目が自我を持ち始めた。恐ろしい現象が起こる。超能力というか、はたまた魔法と言えるものなのか。


 そのの魂はまじわることがないらしい。表面に出ている自我たましいは膨大な情報を脳内に入れ、魂の欲求を満たし続ける。しかし内側の自我たましいは真っ暗闇の中、貪欲に欲求をふくららまし続ける。その、渇望する力が一定以上に高まると、この世界のことわりあらがい、次元をわずかだがゆがめる。


 ほんのわずかでも次元をゆがめた瞬間に起こる衝撃はこの世界に大きな影響を与える。それは、時に、草木を一瞬で溶かすほどの爆炎を起こし、時に、周りが黒焦げになるほどに、大気中の電荷の不均衡を起こさせ放電を起こす。宇宙空間のように大気全てを凍らせる超冷風や、大木をも薙ぎ倒す強風が起こることもある。


 だが、そのわずかにゆがんだ隙間から垣間見る世界かいらくに、内なる魂は欲求の充足を得る。そして、再び漆黒の闇深くに落ちて、自我たましいの欲求はさらに増していく。


 の魂の記憶をみる。最初は単細胞生物であった。わずかだが、その一生に魂のが蓄積される。その後、何度もその発生と消滅を繰り返し、いつしか植物や原生生物となる。先ほどよりの蓄積量が増える。それを繰り返していくと、魚類、爬虫類、哺乳類となる。それらのは、蓄積量が桁違いに多い。


 が魂になるための量を半分以上超えた時に、まれにだが生き物に生まれないこともある。それは、精霊であった。ただ、世界を見ながら、彷徨さまようだけの存在。生物や精霊となることを、繰り返し魂に近づくほど、精霊になった時に五感が発達していくのが分かる。物に触れることを操作も出来るし、人間が出来ない以下だが、次元をゆがめ様々な現象を起こすことができる。そして魂のを全て集めると魂となる。


 人間のほぼ全てに、完成された魂が入っている。だが、それは生まれたばかりの魂にすぎない。魂は再び世界を見て経験して成長していく。まれにだが、再び精霊になる時もある。それは実体がしっかりしており、精霊ではなく妖精と呼ばれる。その妖精の姿や、特殊な力はその魂の生成するために集めたとその魂の成熟度によって変わる。


 そして、だが、わずか20万年ほどで消滅する。どこからかの情報かは分からない。だが、なぜかそう思った。

 

 魂の波動を感じる。それはなんとも言いがたい悲しい感情だった。

 

 ――――

 

 目が覚める。


 静かに目を開けた。眩しい天井が見える。

 自然と涙があふれている。

 

『夢だったのか』

 

 自分はどのくらい寝ていたのだろうか。長い夢だった。

 だが、最後の悲しい感情だけが、誰かからのメッセージのように感じる。

 

 数分間、そのまま夢でのことを考えていたが、まるでかすみにかかったように徐々に消えていく。断片的な記憶のみ残る。


 ふと、包帯の巻かれた少女を思い出す。

 

『いったいあの現象は何だろうか、分からない事ばかり起こる。あの子はどうなったのだろう。名前すら教えてもらってない』

 

 血の滲んだ包帯を思い出す。少女の姿とリラさんの姿はもちろん、その形跡も無くなっていた。

 

 それから1か月ほど彼女たちに合わなかった。情報は何もない。必要以上のことは話さない監視員しか、この部屋には来なかった。こんな気持ちでいるのが辛い、このまま、自分の一生が終わるとは思いたくなかった。


 リラさんに怒りをぶつけてしまい、申し訳ない。そんな後悔も考えてしまった。最後に一言謝ることはできるのだろうか。

 

 監視員2人に連れられて部屋を移動していた時。いつもの廊下を歩く、そしていつもの窓がある。そこには無限に続く宇宙が広がっていた。その宇宙にはたくさんの希望があるように見えた。可能性が永遠に続いているように見えた。なぜかその時、先ほどの魂の夢を思い出す。新しい世界を求める、新しい世界を見て経験したい。そう魂が叫んでいるかのようで高揚する。

 

 使


 その言葉が頭をよぎった時だった。


 前からリラさんが早足で歩いてくる。そして、自分達を遮るように立ちはだかった。


 彼女は挨拶も抜きで、急かすように監視員をはずさせて、自分と一緒に部屋へと戻る。彼女の表情から、焦っているように見えた。

 

「今、装置ブリンクを不正で操作し盗聴を防いでいるから、時間が無いの」とかすように早口で言った。

 

「え、あ……え、いきなり、どうしたんですか? あの……以前のことですが……」


 そんな言葉を無視して彼女は言い放つ。

 

「あなたもここから逃げたいと思ってるんでしょう?」

 

 ドキッとした。まるで心を覗かれているかと思った。だが、少女を部屋に連れて来た時の状況と、今の自分の状況を考えても、彼女がそう思うのは当然だと理解する。

 

って……。リラさんも一緒に逃げるんですか?」

 

「そう。余計な事を話している時間は無いの、急いで」


 リラさんは咄嗟とっさに自分の手を両手で握った。


 

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