第15話 少女
数日間、1人での生活が続いていた。
リラさんが
しかし、彼女は悲しそうな表情で部屋に入ってくる。期待していた胸が急に重くなる。今まで以上の悪い知らせがあるとは思えないが不安になる。
「何かあったんですか?」
すぐには答えず、「ちょっと頼み事があるんだけど」と切り出す。
頼み事? こんな状態の自分に何を頼むんだろう。
すると隣から少女が現れる。少女だと判断した、髪が長かったからそう思った。
なぜ断定できないのかというと、彼女の目は包帯で覆われており、口の周りも同様に隠れている。唯一見えるのは小ぶりの鼻先だけ。さらに、彼女の頭は包帯で巻かれており、その隙間からは長い金髪が流れている。服を着ていても、全身も包帯だらけだろうと分かる。覗く部分全てが包帯で覆われているからだ。
「彼女は今日集中治療室から出てきたところなの。本当なら専門の看護師が付き添うんだけど、あなたが適任じゃないかと思って」
少女は戦争で被害を受けたのか、酷い怪我だ。
「自分が出来ることなら、何でも手伝いますよ」
自分自身がこんな酷い状況であるのにも関わらず、放っておけない気持ちがした。
「包帯を巻くなど、必要なことは看護師にして貰える。あなたは彼女とただ一緒に生活するだけでいい」
「分かりました、でもなんで自分なんですか?」
「あなたと境遇が似ているから。彼女は別の研究の被験者なの」
その言葉に突如、頭を打つような衝撃がはしる。聞き間違いじゃないかと考えるが、リラさんの表情を見ると間違いなさそうだ。沸々と怒りが湧いてくる。
「被験者ってどういうことですか?! こんなに怪我をしている子に何をさせるんですか」
「違うの、彼女はもう研究から外されてるし。被験者というより犠牲者」
腕を組み唇を嚙みながら目を下に向けている。まだ何かを隠している? そう直感して問いただす。
「何が違うんですか、傷ついた子供まで何をしようと……」
言葉に詰まる。そう考えたくなかったから、勝手に推測をした。しかし、自分の心境を理解しているかのようにリラさんは答えを避けずに話し始めた。
「研究で怪我をさせてしまった」と、ほとんど聞き取れないような小さな声で言った。
「え?」反射的に声を上げる。
「いや、ごめんなさい」と言葉を選ぶように話している。
「どういうことですか?」
不安がよぎった。その続きを聞くのが怖く、信じたくなかった。
しかし、リラリースは言った。
「研究目的そのものが、彼女を傷つけることだったの」
「なんでですか!」
彼女は正直だと思う。だが、今の自分にその情報は必要だったのだろうか。自分が叫んでこの怒りをぶつけている時、冷静な自分は思った。全てを話し、怒りを受け止めるのが彼女自身の
「でも、彼女は生まれつき特殊な事があって」
「特殊な人になら何をしてもいいんですか。それってそれなら、自分だって!」
そう、自分自身も実験台だ。これから実験の犠牲になろうとしているじゃないか。
「大勢の人たちが安全に生活するためには、犠牲が必要とでも言いたいんですか。自分たちがその犠牲になれと! 大勢を助けるなら、少数の特殊な人は実験台になる。その大勢の誰にも知らされず犠牲になっていく。でもリラさんは知っている。本当にそれでいいと思っているんですか!」
彼女は、ぶつけられない怒りを自分の中で押し殺している。手を強く握り震えている。怒りや戸惑いが涙となって出てくる。
自分達を物のように使う人たちに温かい涙を流して欲しくは無い。
どうして、リラリースはこの実験に加担しているのか分からない。何かを言い訳にしながら
自分は肩を震わせながら少女を見た。自分自身の待遇と重なり合い、涙を止められなかった。
少女は2人のやり取りの間、ただ静かに立っていた。その姿を見て怒りを抑える。
「彼女は何もわかっていないんですね、どうしてこうなったのか」
「そうね、何も知らず聞かされず……」唇を噛みながら言った。2人とも自然と涙が溢れていた。
――簡潔に言うと、少女との生活は始まらなかった――
少女がたくさんの痛みを
異変に気付く、リラリースもそれに気が付いたのか、ひどく驚いていた。初めて見る顔だった。目の周りの包帯に
どのくらい飛ばされたかは分からない。それは一瞬、今までに受けたことが無い強い衝撃だった。
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