第8話 軍隊への加入


 装置ブリンクに夢中な彼女に話しかけようとした矢先、小さく警報音が聞こえた。部屋のドア付近が赤く3度点滅した後、自動的にドアが開いた。


「これ、集合の知らせよ。素っ気ない合図よね。どう思う? もう少し人間味があればいいのに」と彼女は言った。


「まだ、この世界のことがよく分かりません」


「そうね」と彼女はやや不審そうに僕の顔を横目で一瞥し、そのままドアの方へ歩いていった。その後をついていく。


 通路を歩く間、2人の間には気まずい沈黙が広がる。何を話せばいいのか思いつかない。彼女の名前も聞いていない。自分から先に自己紹介すべきだったのかもしれないと思った。今思えば、先ほどこの世界のことを知らないと言ったけど、もっと詳しく説明すべきだった。これでは、僕はただの不審者だ。彼女を警戒させてしまった。

 

 そんなことを考えながら歩いていると、前に大きな窓がある。部屋からは外の光景が見えなかったが、この通路には備わっていた。その窓から驚愕な光景を目にする。幾千万の煌びやかな星空が広がっていたのだ。あまりの絶景に声を失うが、同時に別の恐怖心でも声を失った。


「ここって宇宙ですか?」


 彼女は驚く僕を見て、屈託のない笑顔を浮かべた。


「そうよ、そんなことも知らないの?」


「大きな船に乗ったはずだけど。宇宙戦艦?! この世界のことや、今何が起こっているかも知らないんです。重力の変化は感じなかったですし」


 彼女はくすくすと笑いながら、「やっぱり変わってるのね。訓練以外の時間は自由だから、今度教えてあげる」と言う。

 

「はい、ありがとうございま……」お礼を言いかけたが、その言葉に引っかかる。「えっ、訓練?」どういうことだ。理解が追いつかない「訓練って何ですか? 僕も参加しないといけないのですか?」


 再び彼女はくすくすと笑った。


「当たり前じゃない、何のためにここに来たのよ。本当に可笑しい人ね」


 彼女の軽い笑い声とは逆に、僕は深刻な顔をして立ち止まる。「訓練って、もしかして軍隊の訓練のことなんですか! こんなに急に……僕は志願したわけでもないし、命令も受けていない。報告もされていない。こんなに勝手なことって……」と、つい声に出してしまった。

 

「どうしたの?」


 その優しい口調が、リラリースさんを思い出す。そして1つの会話が頭に浮かんだ。


『それでも、僕は戦いたくないです』『そう、正直ね。でも、多分それは難しい』その言葉が頭に蘇り、堪えきれなくなり大きな声を出してしまう。「そ、そんな、そうだとしてもあまりに急すぎます!」

「ごめん一体何のこと」彼女は驚いた様子で尋ねた。

 

「急がないと遅れるよ」彼女の言葉は優しかったが、付き合いきれないという様子で先に歩き出した。

 

 まさか、本当に戦争に駆り出されるなんて思わなかった。それもこんな急に。

 軍隊に拘束されている以上、軍隊への強制参加は予想できた。だが、それは「遠い未来のこと」とばかり思っていた。

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