第6話 学校
外に出る日はそれからわずか数日後にやってきた。
「入ってきなさい」
「はい!」と応じ、自分は少し緊張しながらクラスへ入った。そこは、学校であった。机が思ったより小さく、それ以外は以前住んでいた時代の学校と変わらない雰囲気だった。『あ、黒板が無い』
生徒たちの多くが、自分の事を珍しそうにじっと見ていた。
「よろしくお願いします」と自己紹介を終えた後、先生が指示を出した。「空いている席に座ってくれるかな」
応じて指定された席に向かった。その席は机がなかったがとにかく座る。自然と机が出てきて驚く。この時代の技術にはまだ慣れていない。
そして、自分の頭には特別な装置、ヘルメットのようなものをかぶっていて少し恥ずかしい。だが、それは脳内チップが無いため仕方ないらしい。
一方、クラスの生徒たちはこんなものを付けておらず、耳の裏に器具が見えるくらいだった。
「ねえねえ、過去から来た人って本当?」
「過去ってどんな世界だったの?」
「2600年代だったらしいよ」
「え〜! そんな前なのいつの時代? 石器時代?」
「あんたバカだね、地球内で戦争していた時代だよ」
一言答えると同時に3つの質問が返ってくる。嬉しくはあったが何だか緊張というか、居づらさを感じるのは仕方がない事なのだろう。
「この前放送で250歳くらいのお婆さんがインタビュー受けていて、その母が地球のこと微かに覚えていたって話をしていた。脱出時に宇宙から見たら真っ赤だったって」
「え、真っ赤? 青いと思ってたけど」僕は驚いて答える。記憶が曖昧なのかよくわからなかった。というか、250歳ってなに?!。
「その頃はまだ青かったんだね」と言いかけたところで、突然その子が止まり数秒微動だにしない。
「え?」ついその不可解な行動に反応してしまったが、他の子たちは気にせず質問を問いかけてくる。しばらくすると彼女は急に後ろを向いて席に座り外をぼんやりと眺めている。
質問の回答をしながら、それを横目で見る。なんだか不思議な世界だな。そう思った。
数ヶ月が過ぎた。クラスには慣れてきたものの、友達はなかなかできない。過去から来た人間への興味は思ったよりも早く薄れてしまったようだ。自分への微妙な距離感を感じていたが、特に積極的に接することはしなかった。
とりあえずここの学校で勉強して欲しいと言われた。それは義務なのか強制か、はたまた断ることが出来たのかもしれない。だが、抵抗する必要性も熱意もなく、ただ従っていた。
後ろに座っている女子生徒をふと見る。このクラスに入った初日に動きが止まった生徒であった。彼女はかなり年下に見える。
この学校は大学よりも高校の雰囲気に近い。自分とはかなり年齢が違うのだろう。ただ年齢を聞くと50歳とか言い出す。だから、よく分からない。
ここ最近の日常は施設と学校の往復のみ。特別な活動は特にない。
日常のルーチンはシンプルだ。指定されたメニューでのトレーニングや勉強、そしてランニング。食事は自動的に提供される。機械的な扱いに感じる。学校以外で話す相手はほとんどいない。
夜になっても、外は明るいまま。カーテンが自動で閉じ、ドアも自動でロックされ、そして眠りにつくと言いたいが、むしろ、眠りにつかされると言った方が正解だろう。
「これが未来の生活か」とため息混じりにつぶやいた。
このような日常がこれからも続くのだろう、と考える。
だが、そのルーチンを嘲笑うかのような予想もしない事が訪れる。
学校にも慣れ、ついに友人もできた。授業も楽しい時が増えてきた。物理の授業では「新物質の開発」というテーマでの実験を行っていた。もちろん新物質など開発できるはずもない。機器を用いて自分なりに、物質の組み合わせや分離をするものだった。
なんと無く夢中で行なっていると、突如として教室のドアが開かれた。
銃を携えた軍人が数名、部屋に飛び込んできた。
「ウエノはいるか!」そう怒鳴る。
ウエノと聞いて、心臓が飛び出しそうになる。周りの生徒たちの視線が焦点となって自分に当たる。一体どうされるのだろうかと不安になった。
間をあけずに「はい」と答える。何となく、自分から名乗り出ることが身の安全に繋がる気がした。
「ウエノはただいまをもって帝国軍が拘束する」
帝国軍だということに教室中がざわつく。軍服で一部は気付いていたかもしれないが、実際に聞くと多くが驚きの表情を浮かべた。
状況を理解できないままに抵抗したが、友人たちや先生が止めようとしないのを見て諦めた。
どこまで翻弄され続けるのだろうか。ただただついていくしかなかった。
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