第2話 真っ白な天井


 意識を取り戻したとき、また真っ白な部屋にいた。だが先ほどとは違いベッドに寝ていた。少し心地いい。照明は無かったが、天井が光っているように感じた。


「動いてはダメ」


 綺麗な声が聞こえる。周りを見ると、数人の研究者のような人に囲まれている。そして、自分の体が点滴だらけであることに気が付いた。


「いったいこれは何だ、ここはどこなんだ、自分はいったい誰だ。何も思い出せない」と慌てて口を動かす。


 周囲には二人ほどの人がいた。彼らは驚いた顔で見合っていた。


「驚いたな、でも言葉は話せるみたいだね」


 声が聞こえる。


「過去の言語か、翻訳機がちょっと荒くなっているけど、言葉は分かる」


 別の声が聞こえた。その一人、責任者らしき女性はリラリースと名乗った。


「大丈夫、混乱しないでね、きっと良くなるから」とリラリースは優しく言った。


 突然の出来事に頭がパニック状態であったが彼女の優しい言葉はなぜか落ち着かせてくれた。

 

「良くなるって、僕は病気なんですか、助かりますか」と尋ねた。


「ううん、病気ではないわ、あなたは長い間眠っていたのよ」


「眠っていた、それはどういうことですか」


 声は小さかったが、徐々に意識や視界がはっきりしてきた。


「どうやら意識はしっかりして来たみたいね。それを説明するのは少し時間がかかるの」と彼女は言った。


「時間がかかる……分かりました。ゆっくりとでいいので教えてください」


 突然、再び頭が割れるような痛みに襲われた。


「大丈夫よ、今はあまり考えないで」とリラリースは言った。


 ここは、東方群星連合(東星連)に所属するグリス236Fという群星にある惑星レグルス。群星全体の広さは直径22光年、有人惑星数35、有人コロニー数311、総人口は約1.2兆人である。そして惑星レグルスはその中で3番目に大きな星で、612億人の人口を有する、群星内で中心的な惑星の1つだった。


 そして、この惑星には非常に特別な存在がいた。それはウエノ・ミライ。27歳の男性。彼は数百年前に国が進めていた冷凍装置実験の最初の被験者の一人だった。この冷凍装置は改良を繰り返す度に、成功度が飛躍的に高まった。当時の富豪たちや、治療不能とされていた病気を持つ人々が次々と冷凍保存されていった。


 だが、冷凍装置の真実は厳しいものだった。約38万人が冷凍保存されたが、そのうち半分以上にあたる20万人以上が50年も経たないうちに解凍されてしまった。残念なことに被験者が死亡した事例も多くある。


 さらに、人類の多くが地球から脱出した時、その混乱で解凍または破棄されたのは1万5千名以上。消息が不明になったのが約2万3千人。その後、200年以上の間に破損や故障などの事故が頻発し、結果として最後の1人となったのが最初の被験者ウエノ・ミライだけであった。

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