Episode 144 静かなる夜。


 ――それは帰り道。冬の散歩道と呼ぶには少々忙しないイメージ。



 お空に輝くものは、粉雪……


 白と黒の絶妙なバランス。染みる寒さも程好く程好く……


 芸術棟の戸締りはバッチリ。三人が並んで歩く、もうすっかり夜の風景。


 葉月はづきのお家は学園から近く、正門を出たら僅か三分以内の位置にあった。語り合う途上で、その続きは翌日へと、或いは明日のお楽しみという趣で持ち越された。


 その内容は、あくまで絵のこと。


 しかしながら、彼女は知っていたのだ。とある組織の『ドミノ』を。それも私たちを通して。だからこそ描きたいと願っていたそうだ。


 ……何故そうなったのか?


 その理由を述べるには、あまりにも単純明快なことだから。


 実は、葉月こそが、ドミノの黒幕と言える存在だったから。ドミノは、初代バイオリン・ヒーローの時代にも存在していたけど、今のドミノは、新生のドミノ。


 初代から見れば、もう二世の世界。子の世代。


 それよりも、葉月はヒーロー大好き少女だったの。そこから二代目のバイオリン・ヒーローに注目し、その筋から一人の女の子に注目していたそうなの。


 それが、私……


 そして、糸子いとこへと繋がっていった。


 共に歩む、四駅という名の駅。沈黙はそこで一先ず途切れる。漸く会話という形が取れそうな感じ。彼女と出会った頃は冷たさを感じていたけど、年を越して新学期から、彼女のホットな部分に触れた。もっと近い存在と知ったから……私と同じく、孤独の味を知っている子。でも、彼女の方が私以上にダークだったようにも、そんな翳りが見える。


 だからこそ、葉月に描いて欲しかったとも思える。


 そこから始まる物語。糸子の物語が、もうすぐ始まろうとしている。



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