Episode 142 白と白銀と。


 ――雪が溶けて川に流れてゆく様は、季節が変わったなら訪れること。



 今日も芸術棟の二階……


 白い息を弾ませながら、ここまで駆け上がってきた。糸子いとこと二人きり。


 陸君りっくんは御呼ばれされている、マリー姫の護衛として。……護衛って、やっぱり狙われているのかな? 敵対する者も多いってこと。そこで蘇る謎な部分は……


 糸子は今も、マリー姫と敵対しているのだろうか?


 そう思っていたら、そーっと、自ら語り始める。


そらだから、話してもいいかな……と思って」と、前置きを付け加えつつ

「思えば宿命って奴かな? 復讐したいと思ってるのは今も変わらない。ドミノなら、きっと、それができると信じてたから。マリー姫の親が、私の親にした仕打ちを。それがなかったら、私はパパとママと一緒に暮らせていた。……奪われたの。優しかったパパを」


 涙を零す糸子。


 表情からも察するに、想像もできない程に重い内容。私が力になれるのか? そう思っていたら「あ、ごめんね。空に話したかったことは、そのことじゃなくて、もう心配しないでって意味。マリー姫に罪はないし、親のことだって、大人の世界の話だしね……」


 ササッと、糸子は涙を拭った。


 そして微笑む。見え見えな作り笑い。私は思うの。糸子が抱えている問題は、まだ解決なんかしてないってこと。彼女は恐らく、まだ私にすべてを見せていないから。


 今日は、まだ続きがある。


 葉月はづきが私をモデルにしている絵画……


「糸子、一緒にやらない? 私と一緒に、葉月のモデルを」と、私は誘った。方向性はどうかと思いつつも、この方法が今は最善と思えたから。当然、糸子は引き気味……


「な、何言ってるの? 私の裸なんてつまんないし」と、言いながら。


「そんなことない。きっと素敵な絵になるよ。葉月もきっと喜ぶから。



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