第二十七章 ヒーローなこと。

Episode 131 新学期を迎える頃には。


 ――新しい年。新しい学期。この朝と共に開かれる幕。カーテンを開けると共に。



 まだ薄暗くとも、いつもと同じ部屋と空間と。無限に広がる夢の中にあっても、現実の朝を迎えたと自覚。いつものように登校することには何ら違いもない。普通に……


 脳裏に浮かぶことは、戸中となかさんのこと。


 Xマスから年末、そして新年にかけて起きた事件。未遂に終わったけど、マリー姫の暗殺に至ったことについて、その事情を受け入れるには……時を要した。今日でもまだ、まともに顔を見れるのかどうか。戸中さんとはクラスは同じ。彼女が登校するなら、顔は間違いなく合わすことに。……フーッと深呼吸する中、ふと思う。


 一時期は戸中さんではなく名前で『糸子いとこちゃん』と呼んでいたけど、彼女の希望によってまた『戸中さん』と逆戻り。その辺りだったのかな? 彼女は私のこと鬱陶しく……


 ポンと肩に置かれる手、振り返ると、


「お姉ちゃん?」……が、いつの間にか、気配も感じさせずに背後にいた。


「さあ、新学期の始まりだし、明るく行こ、明るく。そらが暗い顔してたら、あの子だって困っちゃうでしょ。マリー姫だって、あの子のこと許してくれてるから……ねっ」

 との言葉と共に、スーッと包み込んでくれる。


 まるで、まるでお風呂上がりの柔らかなバスタオルのように。


「うん、味方ばかりだね……」

 と、私は勇気を出す。戦いのときに感じる勇気。今は包み込むような温かな勇気……


 あの日の涙は、前へ進むため。


 一人のために、君の心を救えるヒーローになるために。


 私はまた歩む。この道を。まずは見慣れた風景の通学路から。しかしながらキラキラしている霜。オレンジに輝く、寒さを運ぶ冬の車窓。走る電車は、いつもと同じ区間……


 四駅で下車。見慣れた顔ぶれ。その中に陸君りっくんも、佐助さすけ君もいて、変わらない挨拶と、白い息の中で交わされる他愛もないお話。いつの間にかこの四人の通学が定着していた。



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