Episode 132 教室での顔合わせには。


 ――正門を潜って校舎に入る頃には陸君と二人。冷たい感じの廊下を歩いた。


 お姉ちゃんは学年が違うし、佐助さすけ君はクラスが違う。教室へは陸君りっくんと二人で、そっと風のように入室した。視線は捜す、視線なだけに自然に。無意識に捜していたの。


 戸中となかさんを。……同じクラスの戸中さんを。


 席に着いていた。ボブで黒縁の眼鏡はいつもと同じ。騒めきよりも賑やかという表現が近い、暖房の風を感じる教室の中、私は一歩踏み出し、距離を近づけてゆく。陸君も一緒に並んで詰める距離。戸中さんの視線はスマホの画面。内容は確認できない。


 プライバシーを守るための仕掛けが施されていたから……


「明けましておめでとう」と、挨拶をする。年頭の挨拶なの。


「……おめでとう」と、ポツリ一言だけで、戸中さんは顔を向けることなく、スマホの画面を見たまま。悲しく思えるも、なるべく明るい声で「今年も宜しくね」と、続けた。


 すると、戸中さんはフーッと、溜息を吐いて、


「始業式、終わったら、一緒に帰らない? ちょっとお話したいの」と言った。


 低い声だったけれど、無視されてはいなかった。彼女がまだ、怒っているのかがわからない故に、不安はあるけど、陸君がポンと私の肩を叩いて「俺も一緒にいるから」と、背中を押してくれたから、ポジティブな思考になって「うん、もちろん」と、約束した。


 それからは、どうだろう?


 窓から見える景色も、色づいてきたように思える。


 少なくともボッチだった頃の暗闇とは違って、明るい世界の中にいる。初めて一眼レフで覗いた風景。あの時の心の動きと同じ感覚だ。……だとすれば、戸中さんに寄り添うことも、できそうな気がする。そう。陸君と一緒なら。そしてグッと握る腕……


そら?」と、陸君は私を見た。


「もう少しこのままで。それから、一緒にいてね」


「ああ。二人で一人だ。俺は、空の……」と、そこでチャイムが鳴った。


 お馴染みのウエストミンスターの鐘。新学期の始まりを告げる音色だ。



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