Episode 100 木枯らしの百羽。


 ――キラキラと輝く朝露。橙色に染まる頃、陸君りっくんはお家に帰ってくる。



 それは、もう今日の話……


 着替えなどの荷物もあるから、パパと車で迎えに行った。私とお姉ちゃんも一緒に。


 病室には、陸君の姿はなく……探し回る手分けして。と、なりそうになったけれど、心当たりが大いにある、彼の行く先。そこ以外にないと言っても過言ではなかったから。


 すると……


 やっぱりだ。いたいたいた! 春美はるみさんの病室。そして広がる鶴の大群……とはいっても折り鶴。彼は零す……「まだ百羽ほどだね。時間が来ちゃった」と、愚痴のように。


「捜したよ、病室にいないから」と、愚痴には愚痴で対抗するも、


「嘘はいけないよ、そら。病室にいなかったから、まっすぐここに来たんだろ」と、何もかも御見通しってことだ。私は「千羽鶴、手伝おうか?」と言うとね、今度は「空は私と一緒に編み物だから。プレゼントするんでしょ? Xマスを共に過ごす、意中の人にね」


 目がハートマーク。お姉ちゃんの瞳に映るハートマーク。


 ボン! と効果音を脳内に響かせながら、お顔から蒸気が、或いは熱気が。どさくさに紛れて、お姉ちゃんはとんでもないことを言ったから、陸君が怪訝な顔をして近づく。


「おい空、意中の人って誰だ?」


「ちょ、ちょっと、お姉ちゃんが誤解を生むような言い方をするから」


 その傍で、お姉ちゃんはクスクス笑う。助け船どころか囃し立てている様子で。するとするとするとだよ……春美さんも同じで、クスクス笑っていた。もう鈍感ね。と、囁く声も窓を打つ木枯らし一号に乗せて。パッと明るくなった景色は、これからの景色なの。


 そのような予感……


 担当医が姿を見せた。春美さんの担当医。


「良好のようですね、息子さんは一足お先に退院ですが、春美さんももうすぐですよ。手術後も異常なく順調ですし。今月中には、息子さんと一緒に暮らせそうですから……」



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