Episode 099 親子結ぶ千羽鶴。


 ――学園から帰着して、それからのお見舞い。お空はもう杏子色になっていた。


 その中を有言実行の人、ウメチカさんは今日もまた。



 訪れる病院。私とお姉ちゃんを率いて、まっしぐらに病室へ。陸君りっくんのいる病室。ウメチカさんが先頭のまま、シャッと少しカーテンを開けて、お顔を合わした。陸君と。


 そして……


 陸君のお母さん、春美はるみさんと……


 椅子に座っている春美さんに「こんにちは」と、声を掛けたウメチカさん……

 するとニッコリと笑みを見せ「こんにちは」と返ってくる挨拶、陸君も一緒に。


 見ると何やら手作業。赤青黄色の……折り紙が、簡易テーブルの上。幾つかは仕上がっている鶴。折り紙なだけに折り鶴。目指すは……「千羽だよ」と、陸君は答えた。


 誰の案? 陸君が、お母さんのため? お母さんは何の病気? それは知らぬまま。明かされるのは今か? すると穏やかに、この真っ白なお部屋の中で響く声で……


千佳ちかさんにって、お母さんの案」


 と、陸君は言う。続けて春美さんが「感謝の気持ち。りくに合わしてくれた感謝の気持ちです。あなたのお子さんたちが無事に生まれてきますようにと、陰ながら願わせて頂きたく、陸と話して始めた次第です。何しろ、子は女にとって最高の宝ですから」と言った。


 染みる心の奥までも。


 なら、陸君と春美さんは、お互いを受け入れたということ。その結果……


 ウメチカさんの瞳に浮かぶ涙。「ありがと」と繰り返すの。敬語さえも忘れる程に込み上がる感情。私もジワリと、もらい泣きに至る。繰り返す「良かったね」と繰り返した。


 そして知ることになる……


 いいえ、語らなかったの。春美さんの病気は何か……


 陸君は退院してからも通うという。千羽鶴を手伝いに。きっと、親子が揃って暮らせる日が訪れるようにと、皆が皆、そう願っているから。そしてそんな世の中になるように。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る