第十八章 ホカホカなこと。

Episode 086 狙撃! 蜘蛛の巣のような標的。


 ――無事故の運営。その重厚感を紛らわすためのメイド姿。これより三人が並ぶ。



 私が真ん中で、お姉ちゃんと糸子いとこちゃんが両隣。何の不自然さもなくニッコリとスマイルの『お出迎え』と『おもてなし』……校舎の入口辺りで立っている。その様は、早朝に演説する警備員に似ていた。メイド姿は、もはや制服。


 目的はあった……

 先刻の響く銃声……狙撃があった。貫通した。左腕を……


 倒れる松近まつちかさん。駆け寄る私たち。でも毅然とし「大事はない。掠っただけ。それより追え、狙撃犯を。一般の生徒を巻き込まないように極秘裏にだぞ」と、指令を飛ばした。


 駆けるひいらぎさん。その後に続く陸君りっくん。狙撃犯の追跡はこの二人に託し、松近さんの手当の後に立つ、校舎の入口……出入口に。検問を張るということを意味している。


 微笑むメイド姿の中身は、警備員。

 或いは刑事のような風格。その意気込み。握る武器は、それに因んで警棒。


 お姉ちゃんは、金色の糸を忍ばせている。それがお姉ちゃんの武器だけど、まだ一度も使用したところを見たことがないの。今回初? という期待を密かにしたの。


 すると、こだました。


「待て!」という雄々しい声。男二人組。追いかける狙撃犯。……どうやって見分けられたのだろう? 一般のお客様や生徒たち。紛れに紛れて、今はもう明るみに。


 その証拠に発砲している。ライフル……と、ばかり思っていたのだけれど、短筒。手首辺りから発射されている弾丸……ではなく空気銃のようなもの。鋭利な空気。


 逃げているということは、何らかでボロが出て……


 反撃するも通用せずって感じで、柊さんと陸君の格好の餌食となった……ってところかな? そして私たちとの距離が二間半……三・六メートルになったあたりで、


 キュルルルル! と高らかな音を立て、放たれた金色の糸。先端にはボビン。それが丁度良い重りとなっている。狙撃犯と思われる男の脚に絡みついた。すぐさま転んだ。



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