Episode 075 神秘な世界は、このドアの向こうで待ち構えて。


 ――夕映えの向こうに薄っすらと見える、お月様と……恋の北斗星までも。



 それは願望というもの。強く強く揺さぶられる心。目の前を駆ける二人の後ろ姿に、少しばかり……ちょっとした動揺というのか、嫉妬よりも穏やかだけど、翳り的なもの。


 藤岡ふじおかさんと陸君りっくんの会話が弾んでいるから。


 まるでマシンガンみたいな藤岡さんのトーク。私じゃ絶対について行けない領域で、喋るも聞くも、どちらも無理! と、心の声。そんな思いを知らずに、陸君は息もピッタリに会話が成り立っている。変装といい、バイオリンといい、何処まで器用なの? と叫びたくなるほど。すっごーく羨ましかった。このままじゃ、このままじゃ……


 と、ちょっぴり泣きそうになったところ、梨花りかさんが、


「心配ないない、可奈かなは基本、百合百合だから。彼氏もいたけどね、ちょっとしたキッカケでね、また百合に戻ったの。ターゲットはこの僕だから。陸君……だったね、そらちゃんの様子見ればわかるから。陸君は間違いなく一途な子だから、今時珍しいくらいにね」


 と言うのだ。会ってまだ間がないのに、どうしてわかるの? と、問う間もなく「女の勘は鋭いから」と付け加えられた。そして受ける、ドアの向こうにある光を。

 昇降口までの道程は、まるで疾風の如く。ドアは内から開けられた。鍵はかかってなくて、広がるお空の世界。それはきっと、陸君が言っていた世界。


 ――神秘な世界。


 薄っすらと見えるお月様の近くには、お星様の輝きもあった。空にキラキラお星様だ。


 おもちゃが箱を飛び出すように、ナチュラルなプラネタリウムと化した屋上。


 語り合う藤岡……可奈さんと陸君。そして陸君の表情。いつものポーカーフェイスから激変。幼き日に見た、あの頃のあどけない表情。懐かしくも、遥か昔のお話だ。


 語り合うことといえば、其々のロマン。


 可奈さんはお星様について、ナチュラルなプラネタリウムのように。同じく天体繋がりで陸君は地球誕生の歴史を語ってゆく。この二人の共通点は、お星様ということだ。



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