Episode 074 夕陽追いかける青春と、学園の七不思議の誘惑。


 ――待ち合わせの場所、イコール約束の場所。廊下、職員室の前にて。



 ウエストミンスターの鐘の音から凡そ十分後、陽炎のように現れた四人のシルエット。


 近づいてくるにつれて、その姿もハッキリしてくる。藤岡ふじおかさんを筆頭にウメチカさんと梨花りかさん。そして太郎たろうさんと……今朝と同じ面々。私は込み上げる喜びで「ヤッホー」と手を振り、陸君りっくんは「案内してくれたお礼に、バイオリン披露するよ」と言った。


 すると、藤岡さんは、


「あら奇遇ね、私もしてるの、バイオリン」と、それをキッカケに、ニヤリとして「実は誰もいない筈の芸術棟に時々聞こえるらしいよ、バイオリンの音色。それもひっくるめて案内してあげるってのはどう? 見せてあげる、この学園の七不思議というものを」

 と、何だか面白そうな感じになって……私は好きなの、この様な展開が……


「君はどう思うの? 学園に七不思議ってあると思う?」

 と、いきなり、藤岡さんは議題をぶつけてきた。でも、その対象は私ではなく、何故か陸君。するとクスッ……と、微かな笑い声を漏らしつつ、


「いいや、七不思議どころではないよ。もっと目を凝らせば、見えてくるでしょ。ほらほら十三の迷宮へ繋がる道程がね。……そこが、僕らの世界なんだ」

 と言いながら……その視線は遥か彼方に? 遠い目をする陸君。


 ――そして駆け出した。


「もっと上へ行こう。もっと神秘の世界へ」と、場を盛り上げそうな台詞も込みで。


「あ、こら、待ちなさい君。それに勝手に上がっちゃダメなんだよ、屋上……」


 藤岡さんが制止しようとするも、まったく聞こえてない様子。私も置き去りにして藤岡さんたちと一緒に。それでもって「千佳ちか、私たちは先行くけど、太郎君と一緒にゆっくりおいで」と、ウメチカさんを気遣ったような様子。そのわけは、ウメチカさんに何かありそうに思えた。何となくだけど、想像はできたの。ある種の女の勘が働いたの。


 そして追う。私は藤岡さんと梨花さんと一緒に、駆け上がる階段。屋上へ向けて。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る