Episode 073 ヒーローの娘。対峙するバイオリン・ヒーロー。


 私は知っている。


 陸君りっくんが初対面でも。ここにいる人たち全員が、陸君には初対面であっても。


 対峙しているのは、ヒーローのような風格の女子で、ヒーローの娘だから。


そらちゃんは兎も角、あなたは? まだ名乗ってないわよね?」


 と続く。ウメチカさんと梨花りかさんの共通の友人、藤岡ふじおか可奈かなという女子生徒。梨花さんと友人なだけに挨拶には厳しそう。さっきから梨花さんがギラリとした目で睨んでいるの。


「君は誰だ?」


 と、陸君は訊く。やっぱり藤岡さんのお顔が歪んで……「君ですって? その恰好からすれば、あなたたちは下級生ね。私たちの方が先輩ってこと。どの様な言葉を使うか、わかるわよね? 私は藤岡可奈。あなたは? 私は名乗ったわよ?」と、怒っている様子。


 そこに生まれる、少しばかりの静寂。


 だけれど、すぐさま、迅速な対応でざわめきを取り戻す風景。


椎名しいなりく。この学園からこの名前になった男だ」と、高らかなる声、響き渡ったの。


 私は事前に情報を入手していた。


 藤岡可奈についてだ。あの国民的な伝説の特撮ヒーロー、その第一号の主人公役が彼女のお父さんだ。そして彼女のお父さんの名前が藤岡ひとし……と言ったのだ。その人はね、私がヒーローになりたいというキッカケとなった人で、近々サインを入手予定としている。


 フッと息を吐いた藤岡さんは、


「君とは少し、お話した方が良さそうね、椎名君。私が案内してあげる、色々と……でもね、それは今ではないから」


「何故なら、もうすぐ授業が始まるから。でしょ、藤岡先輩。あるのなら放課後? それとも明日のいずれか? 空と共々合わせますよ、あなたの御都合にね」

 と、陸君は言う。私にアイコンタクトを取ってから、


「じゃあ放課後、ここで待ち合わせましょう」

 と、藤岡さんの一言で締め括られた。従って一時、ここで解散ということになったの。



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