Episode 052 だけど、出発の時は大団円で。


 ――日常と何ら変わらない穏やかな雰囲気でも、時近付くにつれ益々慌ただしく。



 夢でも幻でもなく、やはり今日という日も変わらずに、その時はやってくる。


 右から左から後ろから前から……気付けばもう目前に。例えばこのドアを開けて踏み出したのなら、そこには見送りの人たちがいたの。この青空スタヂオにいる従業員の面々たちや、社宅に住む、その御家族も併せて。中には、私と近い年の子もいて……


そらちゃん、元気でね」とか「はい、メール交換」とか、まるでまるで、転校して行く前の同級生だったように。……まあ、確かに、私はここに戻て来ないけど。


 結果がわかるまでは、小松市に。


 小松の鬼嶋きしま家へ、陸君りっくんと一緒に帰ってくる。そこで暫くは、夏休みの間は過ごすの。お盆に家族の皆が来る日だって、ここで待ち受けるから。何故かって? それはお盆に、私を訪ねて来られる人がいるから。去年だって会ったの、一昨年だって会っていた……


 今はもう同い年だね、彼とは。


 永遠の十五歳と言っていたの。ウメチカさんともお知り合いだから。同じ名字の星野ほしのだから。ちゃんと名乗ってくれた。――星野旧一もとかず。あの星野善一ぜんいち巡査長ともお知り合い。


 親族とも言っていた。そしてウメチカさんは、旧一さんの姪に当たるそうなの……


 旧一さんは、もうこの世にいない人。


 幽霊だけど、とても優しい幽霊なの。この人から学んだ優しさ。ヒーローの根源だ。


 そのことも胸に秘め、私は旅立つの。椎名しいなのオジサンが駅まで。加賀温泉駅までお車で送ってくれた。動橋駅よりも大きな駅。それどころかメジャーな駅だ。お車では十分程度の道程だけど、歩けば一時間ほど時間を要する。……と、いうことは、もう実験済み。


 だとすれば、もう一眼レフのカメラに納まっているの。初めての景色ではなくなっていた。武生駅は単発だったけど、福井駅から大聖寺までの各駅も、今ではもう守備範囲。空色のPCにもメモリーされている。私の一年間の集大成と言っても過言ではなかった。


 と、語っている間に見えてきた、加賀温泉駅と、その周りの風景も、包み隠さずに。



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