第十一章 ワクワクなこと。

Episode 051 君は知るか? この次の序章。


 ――大イベントにも拘らずに、とっても穏やかな朝だった。



 風鈴の音色が、いつものような目覚めを与えていた。お布団、白いお布団の中で一人ではなく二人。春日はるかさんが傍にいた。寝息も感じ合える距離。とても身近な距離……


 サンダーバードに乗って、パパとママ。


 そしてお姉ちゃんがいるお家までの距離は、ほんの夢を見ている間に着くような距離だけど、これまでは遠い距離のように思えていた。でも、あっという間だったね……


 一年間。ここに来てからの一年……


 ぼやけてくる、このお部屋。天井も、カーテンの隙間から見える、お外の風景も。

 ちょっぴり泣けてきちゃったの……


 お別れを意識したから。春日さんと、お隣の寝室にいる椎名しいなのオジサンも。思えば荷物は……そんなにはないの。一眼レフのカメラと、この身にある鬼嶋きしま流空手の極意。そして道連れの、陸君りっくんと。それでも女の子の荷物は多いと思いきや、キャリーバッグ一つに収まる程度のもの。でもメモリーズは、その何万倍にしても御釣りがくる大切なものだ。


 今日、この先にあること。


 陸君と合流し、先ずは向かう、私の本来のお家へ。パパとママ、お姉ちゃんのいるお家へ。一年ぶりの再会を果たすの。とてもこの数時間後に起きるようには思えないようなそんな朝。まるで忘却しそうな今この時、目覚める春日さんは「おはよう」と、いつものような挨拶、目覚めの挨拶。それから暫くした、目覚めのコーヒーを共に。椎名のオジサンを交えて三人。テーブルを囲んで、まるで普通の休日の朝の趣だけれど、


そら、準備は整ってるか?」


 と、椎名のオジサンは問う。もちろん準備は整っている。今日着ていくお洋服も春日さんが選んでくれたもの。春日さんが手伝ってくれたの、昨日一日がかり。


 オジサンの一言で見る現実。今日が出発の日と自覚。見る見ると見える、イメージもビジョンも混ざり混ざって。そこからは刻一刻……時間の流れは速くなる。



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