Episode 053 新しい季節は、ワクワク感で。


 ――切なくならずに、ワクワク感を満載に。そんな中だ、近づいてくるシルエット。



 誰? 身長は、私より少し高い。何か、何か、とっても綺麗な女性ひと。初めて見る顔だけれど、まっしぐらに私の方へ向かってくる。麦藁帽子に靡く髪。目元もキリリと……


卜部うらべそらさんは、貴方かしら?」と、訊ねてきた。


 声もソプラノボイスで綺麗。口には薄くルージュを決めて、アダルトチックな感じ。私とは、色気が違うことも明白。初対面ということもあって……緊張の極致へと誘われ。


「えっと、どちら様ですか? 卜部空は私ですが、貴方は?」


 笑顔も引き攣っているのが、もう感覚でわかる程、薄っすらと怯え? 流し目に感じるものは美しさもあるけど、危険さも兼ね備えている。背筋が冷える程の恐怖にも似て。


 すると、ポンポンと……


 椎名しいなのオジサンが低い声で「悪戯も、その辺にしとけ」と言い放ち、ギラリとその女性を見ると、その女性もまた鋭い眼光で、睨み返しながら「心外な……」と怒りの声で。


「まあ、サプライズでもなりく、空がすっかり怯えてだな……それにしても上手いこと化けたものだな。これなら大丈夫。もしも追手がいても気付きやしないな」


「でも、お父さんに見抜かれた。完璧ではない」


 ……確かに陸君りっくんの声。その女性の口から発せられている。それにそれに陸君は、椎名のオジサンのことを今「お父さん」と呼んだ。……今、初めて聞いたの。


「そんなことないぞ。俺だって、勘でそう思ったに過ぎん。偶々だよ。……だから思い切りやってこい。それから陸、お前は今日から椎名陸だからな。戸籍でも、俺の息子だ」


 椎名のオジサンは、しっかりとそう言った。


 陸君は女性に扮してもポーカーフェイスだったけど、今はもう素。崩れている……


「行ってくる」


「ああ。しっかりな」


 と、言葉は短くとも別れを告げる。そして私と陸君は改札を抜けて……ホームへと。



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