Episode 032 月の彼方へ、アポロのように。


 ――漕ぎだすように出発。朝霧の中、乗り出す始発、その帰り道。



 日の出は染める、出発した駅は金沢。写真には、もちろん収めた。


 賑わう人々も、まだ少数。この静けさが堪らなく、これより先の緊張を煽る。だからこその道連れに、春日さんも同行した次第……実は、陸君りっくんが密かに連絡を取っていたの。


 そう都合よく……


 そう思えるも、偶然の一致だった。春日はるかさんもこれからの行き先や居場所。生きるために求めていたの。宿がなくなる今……次なるステージとなる、お父さんの元へと……


 その始まりは、まず小松から。


 サンダーバードを下車して、陸君にとっては帰着。早朝間もない、お爺ちゃんとの対面が、まずは実現した。挨拶も束の間で、導かれる大広間。縁側の古式縁な風景に……


 陸君は思いの丈を告げる。


 ……意を決した緊張感の割には呆気なく。お爺ちゃんは笑みを浮かべ、


「行ってこい」と、意図も簡単に。その横でコクリコクリと頷くお婆ちゃんも。目の当たりの麦茶も手伝って和室という空間が、和やかな雰囲気に変えていった。


 その次の台詞、お爺ちゃんの陸君に対する、これまでの想いが浮かび上がってくる。


「可愛い子には旅をさせよ。お前が自らの意思で、とても嬉しいんじゃ。心も身体も強くなったな。原因は、やっぱりそらちゃんか。本当は、いずれこうなると思ってたんじゃ」


 ……ちょっと寂しそうな、お爺ちゃんの声……


 陸君も、何だかキラリと、光ったような涙……


「ありがと」と、低くも囁くような声だけど、深い一言。まるで陸君の、お爺ちゃんに対する想いが凝縮されたような。私はその傍で見守る。寝不足が怪訝される脳内だけど。


「不束な私だけど、宜しくね、陸君」


 と、やっと見つかった言葉。クスッと笑う陸君に春日さんまで……「可愛い嫁入りさんだね、陸」と。ちょっぴり紅潮したような陸君の顔。ポーカーフェイスも無理がある。



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