Episode 033 風吹き荒れ、雨が降り注ぐの。


 ――夏の眩暈と呼ばれる、嵐と間違うような風と雨。岩も砕けそうな雷までも。



 私の……


 私たちの、きっと味方。見事なる応援を奏でている。


 唐突にも、この道場に現れると、その宣言を受けて今、ここに馳せ参じている。薄暗い道場が対決の場となった。バイオリン・ヒーローとの対決は、まさに一発勝負だ。


 軋む床さえも響く、静寂な趣。


 稲光……雷光がハッキリした照明となる。それ程に研ぎ澄まされる五感。手汗握ると言っても過言ではない緊張の刻。扉の左右に分かれて、陸君りっくんと私が構えているの。


 習っている空手は、極真……


 受ける技の痛みを知っている。陸君との稽古でも、拳も蹴りもこの身に受けてきた。逆に私のも、陸君は受けてきたの。それは何故なのか? 相手の痛みを知るために。


 だからこそ、強く優しくなれる。


 それこそが、私の求めるヒーローなの。……それが鬼嶋流空手の極意と悟った。


 でも、まだ浅はかなのも否めず、まだまだ理解に至らない部分も多々あると思う、だけど、今の私は、そう思いたい。きっと、あの人も同じ。バイオリン・ヒーローも。


 鬼嶋流空手を習っていた人……


 なら手加減は……ううん、手加減なんて失礼に当たる。二人でも勝てる相手なのかも定かではないのだから。でないと、容易くOKなどしたりはしないだろう。すると……


 雷をも掻き消すどころか、風も雨も止んで、聞こえるものは、この場に似合わないようなクラシカルなメロディー。間違いなくバイオリンの音色……しかも独特な音色……


 それは仕込みの影響とも、演奏者の業ともいえる内容とも、どちらとも解釈ができるのだけど、それらを解き放つ時に、この勝負は決まるの。


 耳を澄ませる。――恐れるな、恐れるな、その思いは心の鼓動と同化している。


 その時だ! 陸君の鼓動は、私の鼓動とリズムとシンクロした。さあ、一撃必殺だ!



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