第七章 スクスクなこと。

Episode 031 私を月に連れて行って。


 ――今は夜も更けて、もう一泊のお泊りとなった。何とホテルなの。



 でも、ホテルと言っても……カプセルが付く。ここでは男女別々の寝泊り。


 食事処……と言うのだろうか、ラウンジで食事を済ませた後、私と陸君りっくんは別々の行動となる。朝になったらフロントで会おうと約束して。時間は余裕を見て八時半。


 其々の想いを胸に床に就く。


 でも、眠れないのが本音で、募る想いは脳全体に至るまで支配していたの。目は覚めるけど、貴重な睡眠、どんなに浅くとも。……でも、寝汗。辛抱堪らず、床を出て歩む廊下へと、夜を渡る覚悟から入った大浴場。整えるための、サウナ完備の大浴場。


 様々な広いお風呂もあるの。


 思えば、ここ北陸に来てから、お風呂が大好きになったような気がするの。


 今はもう日付変更線を越えて、今日になるの、陸君と一緒に鬼嶋きしま家へ帰る日は。そこで陸君は思いの丈を、お爺ちゃんに伝える決意を固めている。――そして、約束の日取りを決める。椎名しいなのオジサンとの対決の日を決めるの。その果てに何があるのか? 男と男の世界は、女の私には理解できないけど、私はやっぱり陸君を応援しているの。


 陸君の憧れは、バイオリン・ヒーロー。


 陸君が越えたいのも、バイオリン・ヒーローだ。では、その人はどの様な人なのか?


 伝説の人と言うけど、どの様な伝説の人なのか? どの様なヒーローだったのか、私も知りたくなった。なら、この拳のぶつかり合いによって答えが求められるのだろうか?


 サウナの中で、私は思考に走る。


 迸る汗。そこを超えたのならば、スッキリした睡眠を手に入れられるかな。


「あっ、やっぱりそらちゃんだね」


 と、声を掛けられる。近づくにつれ、見覚えのある裸体……ではなくて、何と春日はるかさんだったの。ボブでスポーティーな雰囲気が満載の女の子。どうしてここに? と問う間も与えられずに「君たちと共に、私も鬼嶋家に用事があるから。空ちゃんにも」と……



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