Episode 020 今日繋がるエピソードは、明日からの前進のために。


 ――秘密。



 その二文字に食いついてきた陸君りっくん。そして問い詰める。壁ドンならぬ床ドン……とでも言うのだろうか? まるでアルプスの少女のような乾草のお布団の上で、覆い被さる陸君の身体。さっきまで優しかった陸君が、急に一変して、まるで鬼の形相へと。


「ヒーローだったの、椎名しいなのオジサンは昔。バイオリン・ヒーローなの」


 と、私は目を閉じ声を張り上げた。そこには詳細も何もないけれども、


「バイオリン・ヒーロー?」


 と、明らかに陸君は疑問符の塊。素っ頓狂な声が何よりの証拠。……とはいっても、私には、この先に続く言葉が真っ白。どう説明しようか、どの様に説明しようか……


 思考を張り巡らせつつも、困り果てているところに、


「まっ、いいか。その件はこれから、そらと行動を共にすれば解ることだしな」


 と、陸君が、床ドンを解いたの。そっと。


 そしてスヤスヤと、寝息を立てて……って、ちょ、ちょっと、何なの? と、思いながらも、陸君はそのまま眠ってしまった。彼の寝顔を見ながら段々、私も……


 誘われてゆく。窓越しに、お月様が見守る中で。


 お月様は、月曜日へ導く。私はある種の決意を。


 そっと告げた。二つのことを学ぶと。私が拘りを持てるような。例えば、夏の甲子園を目指す高校球児のような感じの熱意と、青春と呼べるような、私の宝となるような。


 写真と空手。お月様の傍にある、あのお星様のようにキラキラしたものにしたい。虐められていた頃の黒歴史を塗り替えてやるのだから。――私に芽生えた目標は、


 椎名のオジサンのバイオリンから始まったのだ。


 大切な人を守る力。私も椎名のオジサンのようにヒーローになりたいという目標。学園や人のためという大義名分にありながらも、私はやっぱりヒーローが大好き。


 椎名のオジサンは、私の憧れのヒーローだから。そして伝説のヒーローだ。



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