Episode 018 あの頃のように。


 ――蝉時雨の中で、プールを満喫。それができる場所が、ここにはあった。



 鬼嶋きしま家の敷地は広かった。二階建てだけど、屋根裏部屋がある。大き目の窓から、夜空というスクリーンに映える、お星様たち。……空にキラキラ! 私の好きな場所だ。


 それは夜のお楽しみ。大自然のプラネタリウム……


 陸君りっくんと一緒に観るの。そして今も陸君と一緒だ……


 鬼嶋家の敷地は広く、道場の奥深くへ進みゆくと、そこには白い扉。開けると誘う真夏のテーマパーク。そこには陸君が水着姿で、すでに寛いでいたの。



「よお、そらもこっちに来て涼んでみるか、それとも泳いで競争か?」


「いいね、いいね」


 と、その様な声が出た。本当に久しぶりだ。私の中で私が帰って来たような……そんな感じ。電車の中で束の間に眠り。気付けば鬼嶋家まで、きっと陸君が背負ってくれた。そんな温かさが残っている。その眠りの中、何かが変わったような、そんな気がした。


 選んだのは泳いで競争。小学生の頃と同じ。


「それにしても、変わらずだな、空」


「ン? 何々?」「泳ぎもそうだけど、運動神経は抜群。未だに敵わないなあ……」


 と、遠い目をする陸君。水の中から一旦出て、ちょっとばかりの日向ぼっこ。年々気温が上昇する温暖化の中にあるけど、ここは避暑地といえる場所。UV対策も施され。


 風鈴の音が……


 あの頃を呼び覚ました。小学生の頃、幼き日のこと。二人で、ううん、お姉ちゃんも一緒に三人で。でも、陸君を好きなのは、私の方。それは今でも変わらない。今でも。


 でも、今までとは違う感覚。薄々と、でもハッキリと違っている。


 男の子と女の子の違いは元からあっても、トキメキという種類みたいなもの……


 切なさも。表現するには幼い思考? 表現することのできない想い。言葉にさえ。



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