Episode 014 空、鬼嶋流を志願する。


 ――始まりの刻は、いつも静寂。研ぎ澄まされし五感は、厳粛な場を設ける。



 今、私は道場に身を置く。ここは空手の場だけれども、椎名しいなのオジサンは私の隣に座っている。横並び、まるで座禅のようだけど、行っているのは正座。呼吸が乱れると……


「喝!」


 と、肩を叩かれ……ってことはなく、今日は志願に馳せ参じた次第なの。そして、その答えとは、意外なる和やかな雰囲気で「そらちゃん、大歓迎じゃよ。今はもう女子おなごも強くなくちゃのう」とのお言葉。ごく普通の、お爺ちゃんと孫の会話でスタートを切った。


「じゃあ……」「それに空ちゃんの先生は……りく、お前の役目じゃ」


 と、陸君が私の専属の先生となった。それで、その心とは? それも語る、語られる。


「若い者は若い者同士、仲良く稽古する方がいいと思ってなあ……」


 とのことだ。お爺ちゃんは終始笑み。さっきまでの厳粛な空気とは別のものとなっている。椎名のオジサンはホッとしたような感じの、胸を撫で下ろしたような感じの……


 でも、でも陸君は、


「空、稽古の時は手加減なしの甘えもなし。女でも関係なしだから、泣いても続けるのが俺の方針だから、それでもついて来れるよな? 強くなりたいんだろ?」


 と、厳粛な空気を維持したまま、私に問うの。……コクリと、頷いた。


 その上で「私、強くなる」と、言い切ったの。……陸君もまた頷いた。脳内は遡る幼き日のこと。今もまだ子供だけど、もっと幼い日。お姉ちゃんも一緒に公園で砂遊びしてた日のこと。私は……『大きくなったら、陸君のお嫁さんになる』と言っていたの……


 そこでふと思う、椎名のオジサンのこと。


 オジサンには、血の繋がらない妹さんがいることを。脳裏を駆け巡るもの。瞬間のことなので見極めるのが難しいけど、今の私と陸君の関係と、何処か共通点があるような。


 ……すると、陸君が覗き込む、私の顔を。


「フム……暫く見ない間に、成程ね……」と、意味深に。



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