Episode 013 お盆間近の再会。


 ――アスファルトはタイヤを切り付け、傷つけあう関係にあるから。



 少しでも摩擦が治まれば、夕闇の中で、ふとそう思った。ミラーに映る椎名しいなのオジサンの、丸い眼鏡の奥に見える目が、何とも言えない感想を齎すセクシーさ。私の胸の高鳴りは、それが原因? キュンキュンという解釈もできそうで……車は関係なく走る。


 そうだね。椎名のオジサンは、私よりもずっと大人。私は、子供だ。


 見た目は、親子に見える関係。あくまで私の保護者的な関係だから。

 それが証拠に……この距離感。運転席の隣に私はいないの。あくまで後部座席。


そら、もうすぐ着くぞ」「うん……」


 という具合の、何故か知っている鬼嶋きしまりく君のお家。……椎名のオジサンは神出鬼没ともいえる一面を持つ。関われば関わる程、ある意味では謎の深まる人だ。


 オジサンのフルネームは、椎名浩司こうじ。五十代の……独身。今は……


 車種は、ドマーニ。色は黒に近い紺。一厘の赤い薔薇が飾られているフロント。


 まあ、いずれにしても車は、もう小松。見覚えのある情景。いつの日か電車に乗ることができたのなら、この風景を写真に収めたい。もちろん小松の駅も、走る電車も。


 八号線沿いに、陸君のお家がある。


 そこが、私たち卜部家の里帰りの場所でもある。鬼嶋のお爺ちゃんとお婆ちゃんはママのパパとママ。陸君とは親戚と言う形になるけど、養子……なの。本当は、私と兄妹になる関係にある。一緒に暮らしていないのには理由がある。私は一応、こう思うの。


 鬼嶋流空手の跡取り。道場を継ぐもの。何故なら、私もお姉ちゃんも女だから。


 古式縁な伝統を引き継ぐ……それに陸君も訳ありな子。


 どの様に訳ありなのかは、私は詳しくないのだけれど、持病を持っているそうなの。去年は一時期、入院に至っていた。見た目は健康そうに見えるのだけど……


「お、空、久しぶりだな」と、今はもう再会にまで達していた。もう目的地ともいえる鬼嶋家の仕切りを跨ぎ、私も椎名のオジサンも奥へと招かれているのだから。



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