Episode 012 映える夕陽と空。


 ――分割したバイオリンのネックは、元の鞘に収まるように刃を収納した。



 刃といっても厚さ二ミリの鉄の板。それが長さ調整のために折り重なって、ネックの間に収納されている。まるで仕込みの刀みたいに……桃色のリボンは、封印の役割……


 或いは、リミッターの役割?


 フムフムと思考の深みに嵌っていると、クスクスッと、


そらは、そんな難しいこと考えずに、ほら……

 あの青空みたいに自由に、伸び伸びと、このカメラで写真を撮っていくんだ」


 と、椎名しいなのオジサンは指差し見上げる、緑の向こうに見える青いお空。それに、私の名前も空。……小鳥のように羽搏いて、自由に駆けたり跳んだり……飛ぶじゃなく跳ぶ。


 上から下じゃなく、下から上へと。


 だったら、込み上げる力も。……手に入れることができるのかも。そこで思い出す。小学生の時に里帰りする度によく遊んだ、鬼嶋きしまりく君のことを。そういえば、近いの。


 同じ北陸だから。私は声にする、心から湧いた自身の意思を。


「空手……」「ン?」「空手習いたい。空、このカメラと同じくらいに大切……」


 時折出る、自分の名前が一人称に。上手く言葉にならない時とか。


 でも伝えたい。だから深く息を吐き……ギュッと胸に手を当てて、


「私の幼馴染がこの近くにいるの。えっと……場所は小松だよ。鬼嶋陸君って子。空手の種類はね、鬼嶋流空手。私が、空が自由になるために、お願い……」


 ちょっと涙が出たような感触がした。


 そっと、髪を撫でる椎名のオジサン。浮かべているのは笑み……


「条件がある」


「何々?」「ポートレート。空の……君の写真を撮らしてくれたら。もうすぐ訪れる夕映えを背景に、このマンデーパークで。君が今、最高にいい顔してるから」


 そう。この過程を経て、ウメチカさんのように、ここから私の新章は始まったのだ。



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