第三章 マルマルなこと。

Episode 011 円を描くように。


 ――円周率のように割り切ることのできない縁。縁もまた円のように思えた。



 その心は、この場所にあったの。


 満月のように丸い地形をしているマンデー・パーク。ある意味、縁を結ぶ場所……だったようなの。椎名しいなのオジサンが奏で終えたバイオリン。風の悪戯なのか? それとも私の好奇心が蘇ったからなのか? ネックの間に飾られている桃色のリボンを解く。


 ――それを知ったら、君の運命はまた変わる。


 という椎名のオジサンの言葉を制し、バイオリンのネックは割れた。分割した……という表現の方が、正しいのかもしれない。その間から、鉄の板が現れた。二つ折りの。


 それが開かれる時、まるで刀のような形状になる。


 ……って、何故このバイオリンに、このような仕掛けが? それもそれも、まるで

居合抜きのようなスタイルで。すると語る。静かに……


「五線譜を越えた時の、俺の力。俺が、そらと同じくらいの歳の時に手に入れた力。血の繋がらない妹を守るため、俺はこの力でヒーローになった。ヒーローとは何か? 自分のためだけに使わない力だ。誰かを守るため、何かを守るためにこそ使う力なんだ」


 私は、脳裏に駆け巡った。


 事実上のエピソード・ゼロで語ったウメチカさんのこと。私の心に、一歩踏み出すための灯りをともしたこと。つまりキッカケ。そのキッカケが見えない縁と繋がって、広がる青空のような世界へ、私を連れ出してくれたこと。――椎名のオジサンは、きっと私に自由を与えてくれた人。その問いは「強くなりたいか?」ということ。


 何故その問いなのか?


 私には、守りたい人がいるから。それは一人戦うお姉ちゃん。私が虐めに遭って心が潰れ、不登校になったことが原因で、今でも一人戦うお姉ちゃん。もうこれ以上は、お姉ちゃんの心が壊れてしまう。……だから、私は求めた。椎名のオジサンに。


「私、強くなりたい」と、その一言に、答えを託して。



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