Episode 009 椎名の休日は、二人のプチ旅行。


 ――広がる青いお空。このワクワク感は、本当に小学校の時以来。



 ボサボサだった、背中まで届く髪。椎名しいなのオジサンが整えてくれた。もう水色のジャージではないお洋服。文字入りの白がベースの半袖シャツに青い短パン。動きやすいようにとスニーカーも……下着もおニュー。全部用意してくれて、いよいよ出発となった。



 椎名のオジサンと、ちょっとした車の旅。


 目的地は何処? それさえもサプライズ。


 今日の朝、寝汗を流すためのお風呂。湯船に浸かって百まで数えるようにと、脱衣所と浴室を仕切るアコーディオンカーテンの向こう側で、椎名のオジサンが言った。


 今までで一番の、とても明るい声だった。


 そして取り戻したの、ポニーテール。……椎名のオジサンがしてくれた。


 ポニーテールは水色のリボンで飾ってくれた。


 そこでふと思った。昨日の後部座席にあった、桃色のリボンが飾られているバイオリンのこと。今日も、その後部座席に私は座る。……なぜ助手席ではないのかというと、まだ距離感が必要だから。落ち着かずに……その先に至ることが怖かったから。椎名のオジサンが悪い人でないことは、わかるの。とても紳士的な人で、そんな感じの人だから。


 すると……


「おやおや、バイオリンが気になるのか?」と、椎名のオジサンは背中で語ったの。


 確かに運転中だから、こちらに振り向くことはできないけど、まるで背中にも目があるような感じだった。恐る恐るコクリ……と頷くと、椎名のオジサンは大笑いしたの。


 何々? と思っていると、


「ミラー。別に背中に目がある訳じゃないから。……じゃあ、そらのために久しぶりに弾いてみるかな。場所はやはりあそこかな。俺の想い出の静かなる場所」と囁くように。


 ――マンデー・パークへ。



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