Episode 008 「バイオリン・ヒーロー!」


 ――黒い世界から白の世界へ。その扉を開けてくれた人と一緒に。



 その場所は遠く北陸の地……


 ということは、里帰りのお家。お爺ちゃんとお婆ちゃんのお家に近い。確か、小松という場所だったね。それに思い出すの、陸君りくくんのこと。彼とも会える、久しぶりに。


 そして始まった椎名しいなのオジサンと二人の生活。すると、人との接触も増えた。青空スタヂオという会社と隣接している社宅。そこが二人の生活の場所となった。因みに三階の三号室。ここにいる人は皆、その会社に勤める人ばかり。椎名のオジサンも含めて……


 だからカメラだったの。


 私に与えてくれた……ちょっとした旅の友。まるで周りの目から身を守るお守りのように、お外の世界へと出た。夏の風に乗れた夕映え間近な時刻。それはそれは、ここに来てから一週間が経った日のことだったの。立てる三脚。一眼レフのカメラをセットした。


 ――動橋駅。動く橋と描いて「いぶりばし」と呼ぶ。


 駆け出して二十分。少し息切れするくらいの距離。記念すべき一枚だ。


 まさに入口。ここから私は、スタートを切ったの。すると、ジャリッという音……


「ここにいたのか。急にいなくなるから」

 と野太い声。聞き覚えのある声、つい最近。振り向いたら、やはり椎名のオジサン。


 ギュッと構える。強張っているとも思える。


「怒ってないから。そんなに怖がらなくても大丈夫。……喜んでるんだ。そらが自分の意思で、自分から外に出たこと。それにカメラも、大切に使ってくれてるってことも」


 浮かべる笑み。いつもより長い言葉に、温かみを感じた。そして……「空は電車を撮りたいのか?」と訊くから、少し微妙だと思って顔を横に振った。


「まあ、明日は休みだし、ドライブしようか。教えてあげるよ、カメラ」


 ……車に乗る。椎名のオジサンは車で迎えに来ていたの。そして後部座席。私の傍にはバイオリンが……特徴のある桃色のリボンは、何かを語り掛けてきそうな感じがした。



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