夏のシチュエーションボイス

野々村鴉蚣

【女性用】高校最後の夏、水着買ったんだけどさ……海行かない?

ねぇ、あのさぁ。ちょっとここの問題分からないんだけど、教えてくれる? あ、ここの式をXに置き換えるだけ? なーんだ、簡単じゃん。ありがと!


それにしても、君本当に頭いいよね。いやぁ、助かるー。放課後に図書館で勉強手伝ってくれるなんて、本当にいい人だね。ありがと!


私さ、全然勉強できなくて、ほら、クラスでも数学最下位とか取っちゃうしさ。やっぱ馬鹿なのかかなぁ。


頑張れば私にもできるって? えー? 本当かなぁ?


でもまぁ、頑張ろっかな。よーし、次の問題っと!


(蝉の声など、夏を感じさせる音で間をつくる)


あのさ、明日から、夏休み……だよね。


なんか、高校三年の夏って考えたらさー、もう楽しめるの今年が最後って感じしない?


するよね? やっぱ、ちょっと寂しいなー的な。


だってさ、先輩たちも、先生たちも、夏休みが追い込みの時期だーって言うじゃん? うるさいじゃん。


そりゃ、私だって分かってるよ。夏休みに勉強した方が、大学受験有利なことくらいさ。そりゃ分かるよ。馬鹿じゃないもん……。


あ、今、私の事馬鹿なくせにって思ったでしょ?


あーあ、怒った。私もう怒った。私馬鹿じゃないのに。あーあ、勝手にバカ扱いされたー! おこ!


(セミの音など、夏を感じさせる音を少し大きくして間を強調する)


夏休み、明日から始まっちゃうね。


ねぇ、君はどこ受けるんだっけ。


あー、そっか。頭良いもんね。私も同じところ行けるかな……。


ん? あ、いや、違うよ? 違う違う違う、同じ大学行きたいとか、そんなんじゃないよ! ただ、ただね、ただちょーっと、ちょっとだけ思っただけなの。いやほら、私バカだからさ。同じ大学受験したら落ちるだろうなーって、それだけ。本当にそれだけ。他に深い意味とかないから。本当だから!


(セミのry)


ただね、寂しいなぁって、やっぱ思うじゃん。夏休み来るんだなぁって思ったらさ。寂しいなぁって。


ねぇ、明日だけ、受験勉強サボっちゃダメかな?


えー、ダメかなぁ? だってさ、最後の夏休みだよ? 高校生活最後なんだよ?


静かにしろって……そりゃまぁ、確かに図書館でこんなに喋ったら怒られちゃうかもだけどさ……。でも、明日から夏休みで、しばらく会えなくなっちゃうかもだし。


遊べるのも、思い出作れるのも、多分、今年の夏休みが最後でしょ?


そりゃ、大学生になればもっと色んな人と出会って、素敵な経験もできて、たくさん楽しいかもしれないけどさ。


それでも、高校生っていう時間を楽しめるのは、今年が最後だと思うんだ。


だからさ、明日だけ、本当に明日だけ、夏休みとして楽しんじゃダメかなぁ?


……ダメ?


もー、カタブツだなぁ。


ねぇ、あのさ。ちょっとだけ耳貸して?


いいからいいから、耳、こっちに向けて?


(マイクに口を近づける)


私、可愛い水着買ったんだけど、見たくない?

明日、君にだけ、見せてあげる。

だからさ……一緒に海、行こ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夏のシチュエーションボイス 野々村鴉蚣 @akou_nonomura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ