第9話 国からの要望

 上杉は呆れていた。


 こんな時に忍び込んでくる女がいる。


 しかし、相手にする必要もない。


 とにかく睡眠が取りたかった。


「お前か………俺は寝なければならない。悪いが寝させてもらう。」


 上杉は女という生き物の思考をよく知らない。


 寝て起きたら見知らぬ部屋に居た。


 どうやら、監禁されているらしい。


「……………」


 なにが起こっているのかわからなかった。


 だが、考えようによっては好都合かもしれない。


「おはよう。目が冷めた?」


 上杉はまだ寝足りない様子に言う。


「あぁ、目覚めは最悪だな………できれば横になって寝たかった。何日眠っていたんだ?」


 上杉が聞くと女は答える。


「16時間は寝てたよ。」


 我ながら、かなり疲れていたみたいだ。


 大会に延長戦を超えるサドンデスに、トロフィー狩り、愚父との死闘、それが1日に起こってしまった。


 国様は税金でのうのうと過ごしている。


 と言っても、今はその国様も税金を貰えていないからざまぁ見ろと言ったところだ。


「すまないが、ここでしばらくゆっくりしてもいいか?」


 上杉の言葉に女は嬉しそうにそれを承諾した。


 上杉は更に要求した。


「しばらく休息を取りたいから、身柄を自由にしてくれないか? 一緒に寝たいからな………」


 そう言うと女は上杉を自由にする。


 自由になればベットを借りて寝そべると状況を聞いた。


「声は出さないほうがいいのか? 親にはどう話している?」


 女はこう答える。


「まだ話してないよ。」


 それを聞いて大体のことは理解したつもりだった。


「そうか………腹が減ったな………お金を渡すから何か買ってきてくれないか?」


 女は幸せそうにそれを承諾してくれた。


 上杉は死んだように眠ってしまう。


 目覚めれば金を渡した分よりも多くの食料が置かれていた。


「こんなにお金を渡した覚えはないんだが?」


 それに対して女は『気にしないで』という。


 上杉は貪るようにして喰らった。


 水分補給をしたら即座に眠る。


 健康上良くないと言われても、上杉の劣悪な環境に比べればかなりマシな方だ。


 これを良くないとほざく人間は物乞いや給料泥棒、税金で甘えて生きているゴミに等しい。


 毛利総理は頑張っているというのに、降ろされてしまった。


 上が無能でクズでもあり、税金食ってるお前らもクズだから仕方がない。


 公務員といいつつも盗撮や性犯罪をしているクズだからな。


 それか口先だけのプライド高いゴミ、その二種類歯科居ないと行っても過言ではない。


 もう三種類目はそういうクズを排除できず、ごまを吸ってるだけの猿たちだ。


 だが、俺は野放しにされたクズ親父を撃退した。


 税金も貰っていないのに正義を行った。


 後は税金クズ野郎どもも消し去るだけだ。


 目覚めれば夕食に呼ばれた。


 家族団欒としている。


 こういう何も知らずに平和な家庭を送っているのが羨ましくも思い憎らしくも思った。


 この家庭の父親は公務員様だ。


 俺のことを良くは思っていまい。


 寧ろ、俺のことを恨んでいるだろう。


 討論を交わせば、相手側は下らん主張をするだろう。


 そして、この家庭の父親は小心者に見える。


 従って、ここでは討論しない。


 上杉が考えた行動はこれだった。


「私の父親は傍若無人です。ご迷惑をお掛けになったことでしょう。私も父親が嫌いでした。従って、病院送りにしておきました。」


 これを聞いたこの家庭の父は驚いた様子でこういう。


「信じられない。あの上杉の息子はこんなにも立派だとは………」


 上杉はこう思う。


 貴様らは税金だけ食ってるゴミだ。


 あんな親父を野放しにしてよくのうのうと生きてられる。


 こんなクソみたいな男に税金を取られているなんて、国民は悲しいぜ。


 この家庭の父は上杉を高く評価した。


「上杉くん、君が良ければいつでもこの家を頼るといい。」


 おまけに、クリスタルトロフィーの持ち主、更に、優勝チームのエース、こんな美味しい話はない。


 今は恩を売るのが得策だと考えた。


「ところで上杉くん、クリスタルトロフィーを見てみたいのだが、持ってるのかな?」


 早速来たか、と上杉は思った。


「クリスタルトロフィー? あれは私が破壊しました。あれのせいで私は愚父に優勝しろと奴隷のように扱われてきたのですからね。」


 それを聞いて、この家庭の父は本性を剥き出しにする。


「なんてことを!! クリスタルトロフィーがあればのぞみが人る叶えられるのだぞ?」


 上杉は微笑んで答える。


「望みならすでに叶ってますよ。」


 その一言でこの家庭の父は黙り込んでしまう。


「そもそも、税金を貰って生きている公務員が私の望みをクリスタルトロフィー無しで叶えてくれるものだと思っていました。」


 それを聞かされる小心者の父は頭を深く下げる。


「全く持ってその通りだ。」


 娘からもその話を聞かされたことだろう。


 この家庭の父は罪滅ぼしになにかできないかと考える。


「彼の望みはを本当に叶えさせるには、やはり、これなのではないだろうか?」


 上杉はお世話になったために、その家庭から早々に立ち去ろうとも考えていた。


 しかし、この家庭の父親が返ってくる前に国からクリスタルトロフィーが送られてきたのだ。


「失礼、上杉 芯はこの家庭に居ますかな?」


 上杉は嫌な予感がした。


「えぇ………ですので、戸籍の移動をお願いしてもよろしいでしょうか?」


 後は判子だけ貰えれば上杉は愚父から開放される。


 これを受け入れてくれるかが問題だが、それ以上のことが迫ってきていたのである。


 この家庭の父が帰宅した時、上杉は疲弊していた。


 この家庭の父は上杉を疲弊から助けるために話を始める。


「上杉くん、いい話を持ってきたよ。」


 上杉はなんとか座り込んで話を聞いた。


「君を父親から開放するために戸籍の移動を提案するよ。」


 その話を聞いた時、上杉だけでなく、この家庭の母や娘も青褪めた。


 上杉にクリスタルトロフィーを送り付けてきた連中が上杉も引き取ると提案してきたのである。


 上杉はあまりにもしつこいために怒ってクリスタルトロフィーを砕き、税金食ってるゴミ共に無能せあると罵った。


 本来、公務員が仕事をしているなら上杉はこんな目に合わなかった。


 無能が上に登ると有能は力を貸さなくなる。


 上杉はその話を聞いてこう答えた。


「今日は疲れたのでその話はまた後日に………おやすみなさい。」


 上杉が寝室に行くとこの家庭の父は娘や母に怒られてしまった。


 事情を知ったこの家庭の父は浅はかなことをしたと思ってしまう。


 そもそも、税金を食ってるだけのゴミに義父が務まるわけがない。


 思い上がりも甚だしいものだ。


 上杉は明日、この家を出ることにした。


 上杉が早朝、身支度を終えて荷造りを始める頃には、他の訪問者が現れてしまった。


 聞けば、なんと娘を嫁がせたいとのこと、上杉の才能とクリスタルトロフィーが目的である。


「上杉くんはここにいるんだろ? 縁談の話だから少しだけ話させてくれ!!」


 上杉は窓からさっさと飛び出して逃げていった。


 幸い持ち物も少なかったので荷造りもすぐに終わった。


 因みに、毛利総理になってから税金だけでなく、住民税も取らなくなった。


 上杉が一人になっても国から狙われる心配はしばらくない。


 それは、毛利政権が終わった時と言える。


「次のニュースです。あの税金零、住民税零、年金制度などなどを廃止し、クリスタル大会を制度化させた日本の英雄、毛利総理が辞任しました。一体、どのような理由で辞任なさったのでしょうか?」


 上杉の背中には魔の手が忍び寄っていた。

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