第10話 巡り合う2人と斎賀の意味

 逃亡生活の中で、上杉は三日ほど眠っていなかった。


「無能な連中のせいで早死の運命だぜ………有能は楽じゃないが、無能は気楽なもんだぜ………」


 上杉は酷く疲弊していた。


 そのために、暗算ができるほど、体力がない。


 この時だけは、地面に数式を書いたという。


 その数式はサンプル数がなく、憶測のものであり、死して現在でも役に立つ、数学の天才、ラマヌジャンに匹敵するほどであった。


 無能な人間を表す式、追手が現在どこにいるのかを割り出す式、上杉が逃亡した道には、一人の男が名を名付けた。


「これが上杉くんの逃走経路、生けるラマヌジャン、インドの魔術師にちなんで日本の魔術師による数学的逃走経路、でも、モーゼの奇跡にちなんで名付けるか、悩ましい、でも、奇跡ではなく、やはり、数学が用いられてる。よし、ここを神童魔術の奇蹟、いや、『魔術師の逃走経路』にしよう!!」


 そう、この男こそ、クリスタルバスケ、本編で登場したオタクと言われる男である。


 彼は早速、魔術師の逃走経路をネット中にばら撒いた。


 しかし、これが上杉の誤算となってしまう。


 ネットでの評価は、日本の愚民どもには難しすぎた。


 故に、伝説的な物語となってしまい。


 無能が小馬鹿にしたことでムキになり、一つの仮説式をオタクが投稿する。


 それが上杉を捕まえる大きな手がかりとなってしまった。


 そう、上杉は寝不足で衰弱していたが、計算ミスをしてしまった。


 その計算ミスのお陰で、不運にもオタクが上杉に勝ってしまったのだ。


「ちッ………俺としたことが………計算ミスをしてしまった………しかし、このポイントから俺の行動を計算したのか? まぐれ当たりかしらねぇが、日本のどこかにいる数学者も捨てたもんじゃない………ぜ……」


 上杉は諦めて熟睡してしまう。


 目が覚めれば、上杉と桜井が対面した。


「おめでとうございます。お二人には国民栄誉賞が送られます!!」


 上杉と桜井は顔を見合わせてこう言い合った。


「お前、いつ捕まった? 俺は3日間逃げ延びたか? 寝不足で頭がぼんやりしてる。4日か?」


 それに対して、桜井はこう返した。


「僕は5日だね。怪力見てビビって逃げてく警察が多かったよ。寝込みを襲われたけどね。」


 それを聞いて上杉は笑みを浮かべる。


「ちッ、どこかの天才さえ居なければ………」


 2人の会話に再度、国民栄誉賞を送りつけようとする無能な王様に2人は勘定を爆発させた。


「結構です!!」


 2人のその言葉に無能共が握りこぶしを作る。


「このガキの分際で―――!!?」


 それを静止させた男が居た。


「おやおや、いけませんな~、子供にムキになるなんて、それでも日本の総理大臣様ですかな?」


 その声の方向へ振り向く無能は王様は一番の腹心に矛先を向けた。


「貴様!! 良くも言ってくれたな!!」


 その男は驚いてこう返す。


「え!!? わ、私じゃないですよ!!? 声が違うでしょ!!? ね? ね?」


 そう、こうなることを予測したか、レコーダーに先程のセリフを仕込んでおいたのだろう。


 結局、声の主は分からずじまいであった。


 しかし、上杉には数学がある。


 その人物が誰なのかはわかっていた。


 帰り道、上杉と桜井はその男を着けていた。


 男は気がついていたが、敢えて何も言わなかった。


 その男が向かった先は斎賀高校であった。


 上杉は斎賀の文字に心打たれてしまう。


 いや、心を打たせたのは斎賀ではなく、その男なのかもしれない。


 上杉が言う。


「俺、この高校に入学する………桜井、お前も来ないか? バスケなんてしなくてもいい!! 一緒に行こうぜ!!」


 この時の上杉の目は輝いていた。


 桜井は困ったように言う。


「え~!!? 僕入れるかな? 僕が入るとしたら、バスケの推薦とかだよ? バスケの推薦で入ったら、バスケしなきゃだし………」


 上杉は笑って返した。


「馬鹿だな~。入試問題ならどこが出るか俺の数学で導き出してやるよ!!」


 そして、上杉のお陰で桜井は入試試験をクリアし、2人の入学が決まった。


 偶然か、必然か、斎賀高校にはオタクも居た。


 彼は上杉が高校入試するなら、この学校しかありえないと思っていたかは不明だが、上杉はオタクの仮定式によって捕まえられ、この学校に巡り合うことを数学的に導き出していたのかもしれない。


 それは、本人のみ知ることであろう。


「う、上杉………上杉 芯!!?」


 上杉と桜井が逃亡している頃にもう一人の男が暴走し始めていた。


「上杉 芯を出せ!!!」


 それは、雷に打たれて危篤状態となっていた浅井 勇気である。


 そう叫んでは心臓停止を繰り返し、ようやく、目覚めることとなる。


「お、おお、俺には、もう、時間が………ごほッ!!? 無い!!?」


 目が覚めれば、息の詰まるような心臓の音、余りにも速く鼓動を繰り返す。


「あ、あい『う』と………あいつと、ゲッホッ!!? あいつと俺はやれるなら、何でもしてやる!!!」


 錯乱状態の兄を心配して、弟の浅井 尚弥が兄の体を支える。


「兄さん!! そんな体で無理しないでくれ!! ヤツの強さは本物だ!! 残念だけど、やつに勝てるやつなんて………」


 そんな時、モニターからニュースが流れた。


「次のニュースです。クリスタルミニバスケ大会で最強のレジェンズと発表されたのは『氷川 翔』選手です。皆様、氷川選手に祝福を………」


 その言葉に耳を疑った。


「馬鹿な!!? 上杉 芯を倒したとでも言うのか!!?」


 勇気は信じられなかった。


 そんな勇気に尚弥が一つのブログを見せる。


 オタクのブログだ。


「違うよ。上杉 芯は辞退してるんだよ。今は逃走してて誰も彼を捕まえることができないんだ。」


 それを聞いた勇気は歓喜した。


 嬉しい。


「嬉しいぞ!! 上杉 芯!! あっはっはっはっはっはっはっはっは!!」


 狂喜を浮かべながら勇気は氷川の下へと向かう。


 そう、次の物語は公式で行われなかった幻の試合、浅井 勇気と氷川 翔の物語(ストーリー)となる。

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